百三話 無理だけは
「ぐぅ……ごめん、みんな……負けちゃった。」
「気にしないでいいっすよ、ローナさん。あとはこの2人がやってくれるっすから!」
「ああ、何も全部勝てなくてもいい。そのための団体戦だからな。」
「…………あとは、任せて。」
試合に負けて落ち込んでいるローナを慰めながら、俺たちは舞台へと上がっていく。
現在、2回戦も難なく勝利してからの3回戦目。先にニイダが勝って1勝1敗となっているため、俺たちの出番が回ってきた。
『……それでは3回戦第1試合、タッグの選手は登場してください!』
「行くぞ、フィーリィア。」
「うん。」
アナウンスとともに、俺たちは舞台へと上がっていく。そして俺は瞬時に相手を観察していく。
(……中背の男は、短剣持ちの後衛型……魔法中心で来そうだな。対してもう片方の巨漢な男は確か上位で、ローナ曰く近距離が得意という話だったか。だとすれば、おそらく前後衛分けたスタンダードな形で仕掛けてきそうだ。)
「…………フィーリィア、俺がすぐにあの小さい方の男を倒す。それまででかい方を抑えておいてくれないか?」
「……うん、分かった。やってみる。」
俺の言葉に、フィーリィアは淡々と頷く。本来、上位の方を彼女に当てるのは愚策かもしれないが……何も倒す必要はない。数秒持ち堪えるくらいなら、彼女には造作もないだろう。
『……では、タッグの試合を開始します。用意…………始め!!』
「おらぁっ!!」
「「…………!」」
開始と同時に、俺たちと上位の男は互いに距離を詰めていった。そして俺が前を先行しながら、男とぶつかり合う瞬間…………ジェットを発動した。
『ジェット』
「なっ、避け……!?」
「頼んだぞ、フィーリィア!」
俺は男の上空を飛び上がり、スイッチするようにフィーリィアをそいつにぶつけてやった。これで先手で詰められることはないだろう。
「や、やはり厄介……任せたぞ!!」
「ああ、お前はそっちに集中してくれ!!」
(切り替えてきたな……いい判断だ。)
あわよくば、前衛1人で俺たちを封じながら後ろからの援護といった形を取りたかったのだろうが……すぐにそれを捨てたところ、あくまで予想済みって感じか。
「貫け、『アクアランス』!」
「当たらないぞ。」
俺がジェットで後衛の男に距離を詰めていく中、水の槍を放ってきたが……体を翻し、最小限の動きで避けながらスピードを上げていく。
「っ、『グラウンドウォール』!」
(……身を隠した、つまりは………)
「はっ!」
次に、相手は自身の目の前に土の壁を作り出し俺から体を隠してしまった。おそらく何か策があるのだろうが……俺は構わずその壁ごと蹴りで吹き飛ばした。
すると……どうやら相手は壁から距離を取っていたようで、ついでに巻き込もうとしていた足はただ土を壊しただけで、空を切ってしまった。
「かかったなっ……はぁっ……!!」
(……隙を作り、魔法の溜めの時間を確保したか………)
現在、俺はいくらジェットを使っているとはいえ、蹴りをしたばかりで隙だらけといえば隙だらけだ。そんな俺に対し、多少溜めがあっても高威力の魔法で攻めようとするのは最もな話だが…………
「くらえ、ブレイク……!!」
「遅い。」
「ボ……なっ!!?」
俺は空を切った蹴りの勢いをそのままジェットの推進力へと変換し、瞬く間に相手との距離をゼロにした。
そして、そいつの体を掴み上げ……空へと投げ飛ばす。
「うわっ、体が……!??」
「生憎だが、ここで終わらせてもらう。」
「な、なにっ……ぐぁっ!?」
いきなりのことに頭が追いついていないのか、宙でバタバタと体を動かしているそいつの魔力防壁を、俺は殴打していく。
「がっ、ぐぅ……ぶはぁっ!!?」
「トドメ……だっ!!」
「ぐっ、がぁぁっ!!!?」
反撃の判断すら俺はさせず、終わりの蹴りを食らわせて地面に叩き落としていく。その着地地点には…………
「…………!」
「ふん、距離は取らせ……なっ、なんぐうっ!?」
(……狙い通り。)
フィーリィアとの戦いに夢中だった上位の方の男は、俺が飛ばした奴の落下に気づかずにそのままぶつかって下敷きになってしまう。また、それと同時に俺が飛ばした方の相手の魔力防壁は破壊されていった。
そんな光景を見ながら、俺はフィーリィアの元は降り立って声をかける。
「大丈夫だったか、フィーリィア?」
「……うん、魔力防壁も傷つけられてない。早かったね。」
どうやらそこまで苦ではなかったようで、フィーリィアは特に息も切れずに持ち堪えれていたそうだ。
そして、相手が体制を立て直す前に彼女はこっそり耳打ちをしてきた。
「……ウルス、私……魔法、使ってみる。」
「……大丈夫か?」
「…………分からない。でも……いつまでも逃げてたら駄目、だから。手を……貸してくれる?」
フィーリィアは俺の目を見ながら、これまでには見せたことのない意志を伝えてくる。
(…………俺としては、フィーリィアに魔法はまだ使ってほしくない。そのためにも俺は彼女と組んだのだが…………)
「……足手まといには、なりたくない。みんなのために……お願い、ウルス。」
「…………………」
『……選ぶんだ、フィーリィア。』
『……えら、ぶ…?』
その危険さは、彼女が一番知っている。
それでもなお、前に進むと自ら選んだのなら…………
「…………分かった、無理はするなよ。」
「………うん。」
「隙あっ……!!」
「ないぞ。」
話し込んでいる俺たちを隙と見たのか、上位の男が不意打ちの大剣を振りかざしてくるが……もちろんそれを認識していた俺は振り返ることなくシュヴァルツで受け止めた。
「み、見えて……!!?」
「悪いが、少し付き合ってもらう。」
「なっ、何を……ぐほぉっ!??」
そう言って俺は彼の腹に手を当て、発勁で怯ませながら吹き飛ばす。そして発動させたままのジェットで追いかけながらフィーリィアとの距離を取らせて足止めする。
「な、何だこれ……魔力防壁はまだ壊れてないのに……!?」
「ただの小細工だ……はぁっ!」
「くっ……!!」
味わったことのないであろう衝撃に驚いている相手に、俺は続けて近距離戦を仕掛けていく。
しかし、流石に実力は持ち合わせていたようで、すぐに俺の攻撃に対応しながら剣撃や蹴りを自身の剣身で受け止めてきた。
「噂、通りの、実力……だなっ!!」
「それは、どう……も!」
……ルリアさんと戦って以来、すっかり知名度が上がってしまったな。
(まあ、今さら気にする意味は無い。どうせ目立つからな…………)
「やっぱ凄い動きだな、ジェットの奴!!」
「えっ、飛んでる!?? 今年の1年生は凄いわね!!?」
「確か、ウルスって名前だったか? 片方を瞬殺して、上位の方も抑えるどころか……そのまま倒してしまいそうな勢いだぞ!?」
「夏の大会では次席、そして2年の上位といい勝負をしたとは聞いていたが…………これほどだったとは。」
…………やはり、注目されるのは好きじゃない……が、駄々を捏ねても仕方ない。
『やるべきこと』…………俺は、それだけなんだ。
「はぁ、はぁ………!」
(…………そろそろか。)
俺の攻めの対応に疲れてきたのか、少しずつ相手の動きが鈍くなって来ていた。
その変化を俺は見逃さず、自身の剣を徐に横振りしようとする。相手はそれが渾身の一撃と思ったのか、腰深く大剣を構えて受け止めようとした。
「っ、今度はこっ……!!」
結果、俺の剣は完璧に受け止められ、それを確認した相手は反撃を仕掛けようとするが………………
「いい支柱だ。」
「ち………はぁ!??」
俺は剣をぶつけた瞬間、その腕を固定させながらジェットの爆発で推進力を生み、相手の剣を中心に円の軌道を体に描かせる。
そして、ちょうど相手の後ろに回ったところで固定していた腕を離し……背中をその場に斬り伏せた。
「ぐはぁっ!!? ……クソっ!!!」
俺の不可解な動きに思考が止まったようで、反射的に振り返りながら剣を振るってくるが…………もう、俺はそこにいない。
「ど、どこに……!!?」
「上……だよっ!」
「がっ、ぐぅっ……!?」
入れ替わるように相手の頭上に飛び上がっていた俺は、急落下の飛び蹴りでダメージを与えていく。また、予想外の方向からの衝撃だったからか、相手はその場に膝をついて怯んでしまう。
その隙に、俺は態とらしく目の前に降り立ち……こいつを煽った。
「……もう、限界のようだな。」
「くっ……まだ、俺は………!」
「なら、早く立ち上がってくれないか?」
「なっ……この、言ってくれる……!!」
俺の言葉が頭に来たのか、こいつは意地で立ち上がろうとする。そして、ちょうど両足で地面に立った瞬間…………
「『アイススフィア』!!」
「……っ、しまっ……ぐはぁっ!!!?」
いつの間にか背後から迫って来ていたフィーリィアが、魔法を放ち……男の魔力防壁を破壊した。
『……そこまで!! 勝者、第1チーム! また、これによって決着……この戦いの勝利チームは、第1チームです!!!』
「やったね……ウル、ス。」
「…………ああ。」
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「フィーリィア、体は大丈夫か?」
「う……うん、問題……ない。」
3回戦が終わり、次の対戦相手が決まるまでの待ち時間……ローナとニイダがその相手の試合を見ている隙に、俺は控え室で休んでいたフィーリィアにそう声をかける。
すると、彼女は『大丈夫』と小さく微笑んでくるが……見たところ、想像以上に負担が大きそうだった。
「……さっきも言ったが、無理だけはするな。もし本当に辛くなったら、迷わず辞退するんだ。今回は勝負、いざ始まったら戦い終わるまでやめられない…………そのことだけは頭に入れておいてくれ。」
「で……でも、辞退した、ら……人数不足で、負けちゃう。」
「いや、それは心配いらない……そのために『保険』を用意しておいたからな。」
「ほ、保険……? それって…………」
「2人とも、次の対戦相手が決まったよっ!!」
その時、ローナとニイダが勢いよく控え室の扉を開けてそう叫んだ。そして彼女は今日1番の興奮と言わんばかりに目をギラギラと光らせていた。
「……その様子じゃ、やっぱりあいつらか?」
「うん! みんな強かったし、俄然燃えてきたよ!!」
「いよいよっすよ…………ミルさんチームとの勝負!」
「……随分楽しみにしてるんだな、2人とも。」
「あれ、ウルスさんは違うんすか?」
『もう、私だってウルスくんと組みたいのに……勝手に話進めないでよっ!』
『す、すまん……でも、せっかく学院に来たんだ、俺とばかり一緒にいても楽しくないだろ?』
『むぅー! そうじゃなくて私は……!!』
『その通りっ、私はもうこの3人と組むって約束したの! だから一緒には組めないよ!』
「いや…………俺も、楽しみだ。」
そう口にした時…………自然と、俺の口角は上がった。
珍しく、本当に楽しそうですね。
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