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第808話 『イングランドのスペインへの挑戦と東洋への野心』

 文禄四年一月七日(1595/2/15) イングランド ロンドン


 暖炉の火がパチパチと音を立てて執務室を暖かく照らし、窓の外には、テムズ川の穏やかな流れとロンドン市街の景色が広がっている。

 

 エリザベス1世は羽根ペンを握り、羊皮紙に何かを書きつけていた。その表情は真剣そのものだ。


「陛下、失礼いたします」


 側近のウィリアム・セシルが静かに一礼する。エリザベスは顔を上げ、セシルに視線を向けた。


「何事か、セシル」


「スペインとの小競り合いに関する報告でございます」


 セシルは手に持つ書類を差し出した。エリザベスはそれを受け取り、素早く目を通す。スペインとの小競り合いは近年頻発しており、彼女の頭痛の種となっていたのだ。


「またか……一向に収まる気配がない」


 エリザベスは、小さくため息をついた。


「はい、陛下。講和はなったものの、スペインは依然として我々を敵視しており、新大陸における利権を巡る争いは激化する一方です」


 エリザベス1世は羽根ペンを置き、机の上で指を組んでは考える。国際情勢は決して平穏ではなかった。


「新大陸か……わが国の進出を阻もうとするスペインの動きはしつこい」


「おっしゃるとおりです。特にフロリダでの衝突が懸念されています」


「フロリダ……そう言えばスペインより割譲された土地ではありませんでしたか?」


 エリザベスは顎に手を当て、記憶をたどるようにつぶやいた。数ある植民地のうち、スペインはフロリダを割譲地として選んでイギリスに譲り渡していたのだが、その実態はいまだ漠然としていたのだ。


「はい、陛下。しかしその割譲は名ばかりで、実効支配は進んでおりません。スペインの抵抗は根強く、現地の先住民との関係も複雑です」


 セシルは、フロリダ情勢の困難さを強調した。


「現地先住民との関係……?」


 エリザベスは、セシルの言葉に引っかかった。


「はい。フロリダには様々な部族の先住民が居住しており、彼らは必ずしもスペインの支配に服従しているわけではありません。中には我々との接触を望む部族もいるようです」


「まったく、このようにまとまっていない土地を割譲されても意味がない。いかに木材・農産物・毛皮などの資源があってもリスクの方が多いではありませんか……。まあよいでしょう。要はその部族を利用してフロリダの権益を確保するということですね」


 エリザベスは、やや苛立ちをにじませながらも現実的な判断を下した。


「はい、陛下。そのとおりでございます。スペインの影響下にある部族と、我々に好意的な部族を見極め、巧みに交渉を進める必要があります」


「うむ。まずは、我々に好意的な部族との接触を最優先とする。使節を派遣し、友好関係を築き、可能であれば同盟を締結する。それと同時に、スペイン側の部族の動向も注視し、必要であれば牽制(けんせい)する」


「かしこまりました……ではドレークは、いかがなさいますか?」


 セシルはややためらいながら(たず)ねた。


 かの有名な私掠(しりゃく)船船長、フランシス・ドレーク。

 

 彼はスペインの船舶を襲撃し、莫大(ばくだい)な富をイングランドにもたらした英雄だったが、その行動は常にスペインとの火種になっていたのだ。


「ドレークか……」


 エリザベスは腕を組んで考え込んだ。ドレークの武勇と功績は認めざるを得ない。しかし、彼の存在はスペインとの関係を悪化させる要因の1つでもあった。


 今後もスペインとは小競り合いが続くだろう。いずれ決戦となったときには、ドレークの兵力は貴重である。


「……現状維持。あの者には引き続きカリブ海で活動させ、スペインの動きを牽制させる。ただし公式には関与しない。あくまで民間の船舶として行動させるのです」


 エリザベスは、慎重な姿勢を崩さない。


「かしこまりました。ですが、スペインへの挑発行為と見なされ、報復を受ける可能性もございます」


 セシルは懸念を表明したがエリザベスは即答する。


「そのリスクは承知の上です。しかしスペインもある程度の許容量があるはず。そこまでで留まっていれば、大事にはならないでしょう。それにドレークの存在は、スペインにとって大きな脅威となります。泳がせておけばスペインの行動をある程度抑制できるはずです。また……」


「また? 他になにか?」


 セシルはドレークの他の利用価値について考えている。


「あの者の世界一周の経験と情報は貴重です。例の、肥前国と言いましたか。東の島国がスペインやポルトガルに匹敵するような領土を治めていると。確か……ポルトガルを通じて外交文書を送っていたのではありませんか?」


 東洋の島国、肥前国。その名は5年前に純正がリスボンに蒸気船艦隊で寄港して以降、ヨーロッパの国々でも噂されるようになっていた。


「はい陛下。あれから1年たちますので、そろそろ着いている頃ではないでしょうか」


「ぜひとも良い返事をもらいたいものだわね」




 

 ■諫早城


「殿下、イングランド王国から、外交使節がお見えになっています」


「殿下、ネーデルランド連邦共和国より、国交を求める使節がお越しです」


「殿下、フランス王国よりアンリ4世陛下の名代として……」





「忙しいな、おい!」





 次回予告 第809話 『オランダとフランス』

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