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第780話 『隘路』

 天正二十一年三月九日(1592/4/20)  鴨緑江沖


「敵兵の収容が終わりました。生存者は751名です。兵糧は……40万貫(約1,500トン)ほどとなりそうですが、弾薬は……」


「ご苦労、もう良い。赤崎長官、如何(いかが)いたす?」


「兵糧に関しては……これだけあれば、友軍の1か月分にはなりましょう。放っておけば腐るのです。ならば陸揚げして運びましょう。相当な時がかかりましょうが、李提督の協力を得れば能いましょう。それに呉の第2艦隊も来たのです。封鎖は任せ、こちらは陸揚げに努めましょう」


「あい分かった。後は任せる」


「はっ」





 鴨緑江沖の海戦は、肥前国海軍の圧勝に終わった。





 ■第2軍団司令部


「ふむ、敵輸送船と護衛艦隊を撃滅か。まあ、予想しておった通りの結末よの。参謀長、敵はどう動くかのう」


 軍団長である島津義弘は参謀長の中馬(ちゅうまん)重方に聞いた。


「は。敵は渡河した後、上流の義州府へと兵を進めました。されど補給隊をわれらが殲滅(せんめつ)したため、兵糧の不足に悩まされております。ゆえに短期決戦をしかけ……とはいっても南下して再び竜岩浦(りゅうがんぽ)辺りにくるとも思えませぬ。となれば、まず間違いなく平壌を狙ってくるかと存じます」


 重方は冷静に分析した。


「うむ、そうであろうな。されど油断は禁物じゃ。楊鎬(ようこう)の人となりはわからぬが、誰であっても窮鼠(きゅうそ)が猫を()む事はままある。何か策を弄してくるやもしれぬからの」


 義弘は、重方の言葉にうなずきながらも、警戒を緩めなかった。


「はっ。斥候を放ち、敵の動向を厳重に監視させます」





 ■甲軍(平坦だが最長距離:310km):史憲誠


 長く続く平坦な道を行軍する史憲誠率いる甲軍では、徴発隊が農民から食料を集めていた。しかし史憲誠は無理強いを禁じていたため、十分に食料が集まっているとは言えなかった。


 携行している兵糧は各軍同じく7日分。平壌までは最低でも10日分が必要で、しかもそれは敵に阻害されず、通常行軍でのギリギリの量であった。


「貴様ら! 何をぐずぐずしておる! さっさと兵糧を差し出せ!」


 徴発隊の兵士の一人が農民の老婆に掴みかかろうとしているのを見かけ、史憲誠が馬上から声を上げた。


「待て!  何をしておる! 無理強いはいかんと言ったはずだ!」


 史憲誠の厳しい声に、兵士は手を止めた。


「しかし……史将軍! 兵糧がなければ兵たちは飢え死にしてしまいます!」


「分かっておる! だが、民を苦しめてまで食料を奪ってはならん! それは軍務様の望むところではない」


 史憲誠は、兵士を叱責(しっせき)した。


「しかし……」


 兵士は、不満そうに口ごもった。


(このままでは兵たちが飢えてしまう……だが、民を苦しめるわけにもいかぬ)


 史憲誠は、板挟みの状況に苦悩していた。貧しい村から根こそぎ奪ったとしても、兵糧不足の現状が変わるわけではない。しかし少しでも徴発しなければ、兵が飢え、士気にかかわる。





 ■乙軍(距離は中程度:272km):祖承訓


 祖承訓率いる乙軍は中程度の距離のルートであるが、大館郡に行くまでの最初の3分の1は平野である。


 しかし彼らもまた、甲軍同様に兵糧不足に悩まされていた。残りの3分の2は険しい山道となるため、徴発を行っては休息し、鋭気を養い、隘路(あいろ)(左右が山の狭い道)突破に備えている。





 ■(へい)軍(険しいが最短路:244km):楊鎬


 もっとも短い距離を進む楊鎬率いる丙軍であったが、それでも急峻(きゅうしゅん)な山道を通るため行軍速度は遅く、兵糧の消費は早かった。兵糧はギリギリの状態を徴発でなんとか(しの)いでおり、兵士たちの士気の低下は否めない。


「軍務様……このままでは、平壌にたどり着く前に、力尽きてしまいます……」


 副官の訴えに対し、楊鎬は険しい表情で答えた。


「分かっておる……だが、諦めるわけにはいかぬ!  平壌には食料がある。そこにたどり着けば、我々は生き延びられるのだ!」


 楊鎬は自身も飢えと疲労に苦しみながらも、兵士たちを鼓舞し続けた。空元気でも兵士に気弱な態度は見せられない。


「ここを越えれば、さらに険峻な山道が続くことになる。その前に徴発を行い、空腹を満たそう。2万もの兵を養える米があるとは思わんが、かくなる上はやがて来る敵から奪うほかあるまい」


 楊鎬はそういって野営を命じた。





 ■隘路防衛:第6師団司令部(泰川郡)


「報告します! 敵の動向が確認されました! 隘路3方向から東進しており、いずれも平壌を目指している模様です!」


 斥候からの報告に、第6師団長の高橋紹運は地図を広げた。


「やはりな。しかし3つに分けてくるとは……。まともに戦えばこちらが各個撃破されてしまう。然れどいずれの道も隘路である。伏兵をもって鉄砲攻撃を加えれば何の問題もない。各隊に連絡し、警戒態勢を強化せよ! ! 敵の進軍を阻止し、平壌への到達を何としても食い止めるのだ!」


 第6師団は、3方向から迫る敵軍に備え、隘路の防衛態勢を命じた。


 


 ■朔州郡と大館郡の間の明・甲軍隘路(第6師団甲軍)


 福田民部少輔(みんぶのしょう)正則率いる甲部隊は、山間の隘路に伏兵を配置し、史憲誠軍の到着を待っていた。政則は地の利を活かしたゲリラ戦術を得意としている。


「よいか、敵は数が多い。正面からの衝突は避け、鉄砲による奇襲攻撃を繰り返して、敵の戦力を徐々に削っていくのだ!」


 正則は兵士たちに指示を出し、森や岩陰に身を潜め、敵の当来を今か今かと待ち構えていた。





 ■大館郡までの明・乙軍隘路(第6師団乙軍)


 有馬伊賀守盛重率いる乙部隊は、隘路にバリケードや落とし穴などの罠を仕掛け、祖承訓軍の進軍を阻もうとしていた。盛重は堅実な守備戦術を得意としている。


「敵の進軍速度を落とし、持久戦に持ち込むのだ。それ以外は考えずとも良い。兵糧が不足しているのだ。時は我らに味方しておる。長引けば長引くほど、我らにとって有利になる!」


 盛重は兵士たちに指示を出し、彼らもまた敵の襲来を待ち構える。隘路の両側に畝を築き、よじ登ってきた明軍用の対応をした。



 


 ■義州府から亀城市までの明・丙軍隘路(第6師団丙軍)


 土岐大隅守頼長率いる丙部隊は、最も険しい隘路に布陣していた。頼長は勇猛果敢な攻撃を得意としている。肥前国陸軍ではどの部隊もそうだが、基本的な能力は変わらない。


 変わらない、とした上でそれぞれ特徴があるのだ。


「楊鎬は、この道を通るはずだ。本来であれば伏兵などあまり気が乗らぬが、命令ならば致し方なし。地の利を活かしつつ敵を攻撃し、士気を挫いて一気に叩き潰すのだ!」


 頼長は兵士たちに(げき)を飛ばした。彼らは、高地から敵を見下ろす位置に陣取り、敵の出現を今か今かと待ち構えていた。





 次回予告 第781話 『決戦』

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