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小佐々家中の台湾征服計画

 十月二十一日 肥前小佐々城 小佐々純正


「冗談ではない! 台湾を治める家中があるのか? 法度があるのか? あるのは文字も持たぬ首を狩る野蛮な原住民ではないか! 成敗して何が悪い!」

「我らも確かに首をとる。しかしそれは正々堂々戦った上じゃ。武器も持たぬ無垢の民百姓、女子供に手など出さぬ!」


 勝行は怒り心頭である。実は、この話は豊後からの帰りの道中に聞いていた。帰りは急ぎの用事も無かったので、国東半島を回ってゆっくり陸路で帰ってきたのだ。もちろん宿泊予定の宿は事前に知らせているので、通信は随時入ってくる。


「無念、でござる。情けのうござる、それがし、それがしは……」


 涙ぐみながら話すのは、旧平戸松浦の家臣、北川長助である。入植は大村や有馬の遺臣も多かったが、平戸松浦の遺臣が一番多かった。純正自身は冷遇しているつもりは無かったのだが、やはり肩身の狭い思いをしている者もいたのだろう。


 練習艦隊司令籠手田安経は、帰路台湾島によった際に長介を発見し、保護したのだ。純正はご苦労であったの、つらかったであろう、と労いと慰めの言葉をかけた。ある程度予想はしていたが、それでも想定外の事態である。


 入植者と同じくらいの兵を置き、防備したのだ。それが全滅に近い損害で、非戦闘員である入植者が殺されるとは。長助一人がいたとして、結果は変わらなかったであろう。おそらくは残りの百名近い死者と同じ末路を辿ったはずである。


 しかし短い間でも苦楽を共にし、一緒に未来を築こうと語り合って来た仲間の死は、そう簡単に割り切れる物ではない。長介の無念は計り知れない。まずは遺族にその旨を伝え、見舞金を送る。そして葬儀も家中で費用を出して執り行う。


 北川長助は、襲撃のあった日はたまたま非番の日であった。一人入植地を離れて、釣りに出かけていたのだ。釣果も無く夕刻帰ったところ、惨劇を目撃した。五十数名いた兵は全て殺され、残りの女も子供も無惨に殺されていたと言う。


『長介はそれがしが幼き時よりの友、嘘偽りなど申しませぬ』そう断言するのは、籠手田安経だ。目には怒りとも苦しみとも、悲しみともとれる感情が浮かんでいる。


「……明に聞いてみよう」

 純正は言った。


「相手にされるはずがありません。彼の国の者らは、我らを日の本の一地方領主としてしか見ていません」


 利三郎が応える。


「それに、明は今それどころではありませぬ。北虜南倭と呼ばれた物は、一応の収束をみております。しかしながら貿易は我らのみ禁じられておりますし、国内の統治に精一杯で、台湾まで統治が行き届いておりませぬ。存在も知らぬ、と言われるかも知ませぬ」


「原住民は『化外の民』(国家統治の及ばない者)である、と」

 利三郎はさらに続けた。


「では、抗議する前に事実を確認するとしようか。台湾で我らの民が襲われ殺されたが、これ明国政府の知るところや? と。要するに、台湾は明の領土かどうかを確認するのだ」


 言葉が通じぬゆえ、衝突はやむをえぬ。しかし入植者全員が殺されるとなると、話は別だ。一人二人ではないのだ。明らかな敵意を感じる。もしも明の統治下にあり、島内になんらかの統治機構があるならば、そこを通じて話をすればいい。


 無いなら無法地帯であり、明確に明の領土ではない。言質を取ったわけだ。これは台湾成敗になる。


「安経よ。台湾島には何か、どこかの国の建物、家中の物の様な物はあったか?」

「は、島の南部に我らと同じ様な目的の集落を見つけましたが、無人でした。荒らされた様子で、おそらくは我らと同じ様に、襲撃を受けたのではないかと思われます」

「どこの物かわかるか?」

「ポルトガルの物ではないかと」

「ポルトガルか……」


 純正は考えた。ポルトガルがしっかりと支配権を確立していれば、やがて領有を主張してくるだろう。しかし、このまま撤退すれば、明の支配が行き届いていないのであれば、我らが独占できる。先住民とは積極的に交易はしない。


 どうせ意思の疎通は出来ないのだ。領地は少しずつ増やしていけば良い。まずは東南アジアへ航海するための、中継地点の能力を持たせなければ。それに確か台湾には金、銅、そして石灰石の鉱山がある。鉱物資源は有効に使わなければならない。


「ではまず、明に使者を出し、あずかり知らぬとの言質、いや正式な書面が良かろう。書面にて台湾島全域を『化外の民』の住まう島、つまり領土でない事を記させるのだ。そうすれば後腐れが無い。その後琉球にわたり、事情を説明する」


「明が納得しているのであれば、琉球も文句は言うまい。我らと通商の協定が出来たのだ、むざむざ我らを敵に回すような事はするまいて」


 純正はみなの顔を見回し、確認するように話した。


「では、使者の派遣と書面の作成を急ぎましょう。明の台湾に対する立場を明確にし、我らが領有したとしても、問題ないようにする事が先決です」


 と利三郎が話をまとめた。


 小佐々家中は台湾を征服し、南方への足がかりとする事を心に決めた。百名の仲間の死を乗り越え、小佐々家の国力をさらに高めるために、一致団結して行く覚悟を持った瞬間でもあった。

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戦国 武将 転生 タイムスリップ 長崎 チート 無双 歴史 オタク
― 新着の感想 ―
[一言] この作品を知ったのが今年なんで今更かと思いますが、台湾の事を小佐々家と明が話合いをしたからとしても原住民からしたら知らない事なんだから自分の領土を守る為なら侵略者を滅ぼすのは当たり前でしょ。…
[一言] 台湾進出ならば蚊取り線香が急務ですね
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