四面楚歌と東奔西走
同年 十一月 小佐々陣中 小佐々純正
「なに!?まことか?」
耳を疑った。
「いかがなされました?殿」
そう言って次郎兵衛が近づく。
「常広城の大村守備隊が南進しているそうだ。」
「南ですと?北ではなく?」
「そうだ、南だ。どうみる?今南に向かっても何もないぞ。塩田津の湊を戦いもせずに明け渡すのか?」
次郎兵衛は考えている。
「まさか、とは思いますが、・・・有馬と共謀して、伊佐早の西郷殿を攻め滅ぼそうとしているのでは?」
「伊佐早の西郷殿をか?今か?龍造寺が目と鼻の先に迫っているのに?」
「はい。考えたくはありませんが、可能性の一つとして捨てる事はできません。」
次郎兵衛は続ける。
「確かに有馬・大村は小佐々の先代をはじめ、南・西肥前の国人衆と結束して、西は平戸松浦、東は龍造寺に対抗してきました。しかし一昨年、敗れました。その後の両家の凋落ぶりは見ての通りです。そしてその戦を裏で操っていた大友は、何をしましたか?何もしていません。両家がそれに不満を抱いているとしたら?肥前守護だと大上段に構えるくせに何もしない。かたや龍造寺が、本領安堵と伊佐早の地や周辺を切り取り次第、などの条件を出してきたらどうでしょう?」
「両家はのる、か?」
俺は感じていた不安が現実になるのを感じながら、治郎兵衛に確認した。
「のらぬ、とは言い切れませぬ。」
「もとより、今のままでは両家は先細りです。有馬は西郷によって出口を塞がれ、大村は分断されております。有馬領の口之津は、領主によって布教は許されておりますが、いまだ南蛮船の定期来航にはいたっておりません。大村は貿易の名はとれても、実を取れておらず、さりとていまさら取り戻そうにも、われらは大きくなりすぎました。」
次郎兵衛が言う事はもっともだ。このままでは、いずれわれらか他の勢力に飲み込まれるであろう。
「そこで、龍造寺がわれらの動きを封じている間に、援軍のない西郷を討つ。あながち無謀な戦ではござりませぬ。」
ううむ、と考えていたその時であった。
「申し上げます!伊佐早の西郷勢、有馬に東の拠点・合津城を攻められ落城!兵は高城城に集結しております!」
なんだと!くそう!嫌な予感はなんでこうも当たるのか!!
「申し上げます!常広城の守備兵、南下し大浦城を通過、竹崎の有馬兵と合流して高城城を攻める模様!」
「申し上げます!三城城の大村本軍、南下して高城城を攻撃の動きあり!」
完全に伊佐早の西郷殿は囲まれてしまったではないか!俺の読みが甘かったか!まさか全軍をもって潰しにくるとは!
しかしこうしてはおれん。彼杵に残している兵力をもって西郷殿を救わねば。盟友を放置したとなれば末代までの恥だ。
「よし!誰か!」
と俺が声をあげ、使いの者を走らせようとしていた時であった。
「弾正大弼様!お待ち下さい!」
陣幕の外から、若い、張りのある声がした。
「誰だ!え?えー、いや、え、丹後守殿。」
初陣として爺様と一緒に参陣していた、相神浦松浦盛である。
俺の母は相神浦松浦親(宗金)の娘だ。だから盛は義理の叔父になるが、立場上何と呼べばいいのかややこしい。官職名で呼べば当たり障りないかな。向こうもそれで呼んできた。
「兵を差し向ける前に、ぜひとも私を有馬・大村へ遣わしいただきますよう、お願いいたします。」
出た。説得するとか何とか言い出すんだろう?どうせ。
「行っていかがする?」
立場上、上から目線で話す。
「されば有馬も大村もそれがしの兄なれば、説得して兵を引かせとう存じます。」
「能うか?」
「わかりませぬ。されど肉親の情より濃いものはござらん。きっと考えを改めてくれると信じておりまする!」
俺は、ふう、とため息をついた。やれやれ、という気持ちと、自分が同じ立場でも割り切って行動できるかどうか?などを考えながら、静かに答えた。
「丹後守殿、身内、しかも兄弟を信じたい気持ちはようわかる。しかし、そなたの兄上たちは、敵方にそなたがいるのをわかっていて、西郷殿を攻めているのだぞ。しかも、あまり言いたくはないが、そなたの父有馬晴純は、次男を大村、三男を千々和に、四男を波多に、そして五男であるそなたを相神浦に養子にだしておる。要するに支配力を高めるためじゃ。言う事を聞かせるためなのじゃ。」
「そういういきさつで、有馬の嫡男と次男で大村の当主を、納得させる事ができるのか?」
しかし・・・・。
盛は何かまだ言いたそうだ。諦めてはいない。
その時、ガバっと陣幕を開けて、老将がものすごい剣幕で入ってきた。
「失礼いたします!こおおおおぉぉぉぉぉぉぉのおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおお馬鹿者があああああ!」
ぐわしゃん!どがららら、と轟音が鳴り響いたかと思えば、盛が倒されうずくまっている。
「盛!何を寝言をほざいておるか!お主の言葉と行いに、相神浦の行く末がかかっておるのだぞ!お主は有馬の息子だったかもしれぬ。しかし今は相神浦の当主ぞ!家の事を第一に考えろ!」
「弾正大弼殿!申し訳ございませぬ!しっかりと言い聞かせますゆえ、平にご容赦のほど、お願いいたします!」
俺は顔でいいよ、という素振りを見せた。爺様が盛を引きずっていく。
「よし、多比良の勝行に使いをだせ!伊佐早の西郷殿をどんな手を使ってでもいいから必ず救え!と。」
「はは!」
使いが幕舎を出て走り去る。
・・・・・爺様すげえな。何歳だよ。
こちらで加工しています。
出典:国土地理院ウェブサイト (https://maps.gsi.go.jp/#10/32.883624/129.865265/&base=blank&ls=blank&disp=1&lcd=blank&vs=c0g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1)




