志佐へ「手切之一札」
同年 四月 吉日 小佐々純正
天気は晴朗だった。雲ひとつない。二人の門出を祝っているのだろう。
小佐々城から伊万里城に向かうには二通りある。七ツ釜から船に乗り、早岐の瀬戸で上陸した後、陸路で向かう路。船に乗り込む港はどこでもいい。
もう一つはそのまま海路で伊万里まで直接向かう方法だ。全部陸路で行くのは可能だが、大村領を通らなくてはならない。嫌がらせの可能性があるし、二日以上かかる。
雪は海路を選択した。
やっぱりね。こういうのを予想通りっていうんだろうか。お転婆?よく言えば活動的か。とにかくじっとしているのが苦手なんだろう。海軍の船に乗せてくれ、乗せてくれ!としつこく言われていた。
これでもう言われる事はない。スッキリする。自分の娘でもないから、父親がよく娘の結婚式で流す涙、の様なものはない。
それにしても、嫁入り道具っていうのかな?輿が十五艇と長持ちが五十棹以上ある。要するに荷物なんだが、やたらと多い。そして結婚後も石けん送ってくれ(もちろん最高級沢森TSUBAKI)だの、椎茸ができたら送ってくれだの、いろいろと言ってくるんだろう。
まあ、かわいい妹のいう事なら、なるべく聞いてあげたいけど、嫁入り後も続いていたら旦那の立場がなくなるぞ。浪費妻?みたいな悪評もつく。
「兄上、何を考えているんですか?」
後ろを見ると、純白の小袖と打ち掛けを着た妹がいた。
「おお、綺麗だぞ、雪」
「でしょう~えへへへ。」
「まさに馬子にも衣裳~あいたぁ!!」
足を踏まれた。ほんの冗談なのに痛すぎる。
「兄上は本当に一言多い。そんなんじゃ舞様に嫌われますよ!」
雪が言う。
(舞には言わねえよ!)と心で叫び足の激痛に耐える。
平戸瀬戸を過ぎた辺りで、弟の千寿丸が祝いに駆けつけてきた。伴の者に荷物をもたせ、挨拶をして倉庫に運び入れる。
「久しいですね、千寿丸。いえ今は治郎様ですか。」
元服して松浦治郎忠政である。
「恥ずかしいですね。姉上にそう言われると。」
「うむ。立派になったな。平戸はどうだ?」
「なんとかやっています。どうしても松浦の旧臣の視線はありますが、そこはしっかりと務めて、兄上のお役に立たなければ。」
「ありがとう。しかし、そう考え込まなくてもいい。こちらの事は俺がやる。お前は民の事を第一に考えろ。よいな?」
「はい、兄上。お心遣い感謝いたします。」
養子に出した時は半分涙目だったのに、本当に立派になった。立場が人を変えるとはこの事だろうか。
「兄上、主役は私ですよ。」
雪が割って入る。
「はははは。そうであったな。すまぬすまぬ。」
兄弟三人の和やかな時間。いつぶりだろうか。こんな当たり前の時間さえ、ひどく貴重に感じる。
「もう、二年になるのか。」
「そうですね・・・。」
「はい。」
平戸瀬戸を抜けて艦隊は北上する。
間もなく鷹島水道に入ろうかという、手前の青島を過ぎた辺りで、
「何奴じゃ!曲者!出会え出会え!」
船倉の方で叫び声が聞こえる。何事だ?
見れば、数人の男が家来に囲まれ、囚われている。
「離せこの野郎!」わめきながら暴れる襲撃犯。
その後、爆薬を発見した。仕掛けてから海に飛び込んで逃げる算段だったようだ。
襲撃犯は・・・、志佐の家臣である。
いや、だった、というのが正解だ。二年前の不可侵条約締結以降、商船の寄港が減り、物価高で領民の生活は困窮していた。食うに困った元家臣が、こうなったのもお前のせいだ、とばかりに嫌がらせで結婚を台無しにしようとしたようだ。
下手したら死人がでるぞ!!
いい加減腹がたってきた。自分は何もせず、人のせいにするな!いや、ここまで放置した志佐が無能なのか?
伊万里はあの後代替わりして、すぐさま俺たちのやり方を取り入れようと、何度も使者を送ってきた。その御蔭で収益も上がっている。波多でさえ、商品の流通や商人との仲介を依頼してきた。
「手切之一札」
俺は志佐に、婚礼が終わり次第、送りつける様に指示をだした。
襲撃犯は、尋問だ。




