漏れる秘密
「それは……俺が退魔師だから」
俺は、夢遊病の患者のように呟いていた。
口が勝手に動いているかのようだ。
涼子は妖しく微笑む。
「退魔師? それはどんな仕事なのかな~? お姉さんにもわかるようにお・し・え・て」
「天界大戦によって人間界に逃亡した堕天使。それの作り出す悪霊を……」
エリセルの顔が脳裏に浮かび上がる。
それを倒した時のアリエルの切なげな表情も。
俺は、咄嗟に箸を掴むと、手の甲に突き立てていた。
痛みで夢心地の気分から、素面に戻る。
苦痛に顔を歪めながら、問う。
「俺に今、なにをした……?」
「天界大戦、か。面白い情報だったな」
そう言って、涼子はスマートフォンに文字を打っていく。
「あんた、何者だ?」
「それは、私の台詞でもあるなあ」
涼子は微笑んで言う。
「退魔師と言うなら私達が元祖」
なんだって?
それは、どういうことだ?
「貴方は、何者?」
涼子の瞳が、じっと俺の瞳を捉えた。
料理が運ばれてくる。
涼子はポケットにスマートフォンをしまった。
「ま、一時休戦といこうか。美味しい料理が冷めちゃうのは勿体ないことだ」
そう言って、彼女は本当に呑気にラーメンを啜り始めた。
俺はしばらく呆然としていたが、一人だけ殺気立っていても仕方がない。
あてつけるようにして料理にがっつき始めた。
続きは、料理を片付けてからだ。
ただ、この時の俺には本当に武器がなかった。相手の手の内も正体も未知数だし、自分の正体がどこまで漏れているかもわからない。
正直、アリエルが恋しかった。
続く




