都会に憧れて
「ねえねえ騎士君。同じ上京組仲良くしようよ」
そう言って、涼子が水の入ったペットボトルを差し出してくる。
蓋を開けて、中身を一口飲む。
「涼子さん、都民じゃなかったんですか?」
「ミュージシャンに憧れて、ね。上京したんだ。やっぱり都会は違うね。人の数が段違いだ」
「そうですね。初めて上京した時は、僕も若いグループと頻繁にすれ違うので、どこかで祭りでもやっていたのかと思いました」
「あるある~」
そう言って、涼子は愉快げに笑った。
「音楽、なさるんですか?」
「売れないシンガーソングライターだよ。投稿サイトじゃそこそこ再生数あるんだけどねえ」
「へえ、そりゃ凄いですねえ」
「凄かないよ。売れてないもん」
そんな雑談をしているうちに、店にたどり着いた。
中々古風な佇まいの店だ。
ちょっと古臭くて、大丈夫だろうかと思う。
「こういう店のが美味しいんだよ」
涼子は何故か自信たっぷりに言う。
「前に入ったことあるんです?」
「んにゃ~?」
にやりと微笑んで言う。
なにが楽しいのかわからない。
「騎士君もライブ感を楽しまないと損するぞー」
楽しみすぎても損する気がするのだがな、と思う。
店の中に入った。
常連客らしき人々が数人入っている。
最低限の味は保証されていそうだ、とほっとする。
メニューは変わり種もなく、シンプルだった。
「醤油ラーメンチャーシュートッピングで」
「あいよ」
涼子が早々に注文を頼む。
「じゃあ、僕も同じで」
ラーメン好きと言うほどでもないのでこだわりはない。
「ああ、ついでにこの子に炒飯と餃子を」
涼子の言葉に、僕は驚いた。
結構な額になりそうだ。
「悪いですよ」
「いいんだよ。若い子が遠慮しない」
「涼子さんも若そうですけどね」
「大学、行ってないからねえ。姫君ちゃんとそう大差ないんじゃないかな」
となると、かなり若い。それで一人暮らししつつ音楽活動をしているとなると、立派なものだ。
「それでさ、話なんだけど」
目と、目があった。
どきりとする。
そして、それ以上に吸い込まれるような気分になった。
なんだろう、この気分。
足元がおぼつかなくなるような。
「鬼瓦君はアイスケースをぶん投げるような、常人とは程遠いような腕力の持ち主だったよね」
「ええ」
その映像は、ニュースで何度も取り上げられている。
「君は、どうやってそれを鎮圧したのかな?」
涼子の目が、怪しく光った。
続く




