ラーメンでも食べようよ
「エイミーに精霊をつけることはできないだろうか」
草野球の練習も休止状態になってしばらく経った朝。
俺は駄猫にお願いをしていた。
アリエルはきょとんとした表情をした後、理由を聞いてきた。
俺はありのままの現状を語った。
「それでなくてもエイミーは最近ツイてないというかなんというか見てて不安なんだよな……」
「まあ、いいにゃよ」
アリエルの返事は軽かった。
そのあまりにもの軽さに俺は戸惑ったほどだ。
「いいのか? そんな、私用で」
「人間のために滅私奉公してる身にゃ。少しぐらいの依怙贔屓は許されると私は思うにゃよ」
まあ、つまりは適当ということか。
その適当さに感謝して、俺は家を出た。
最近は徒歩での通勤が習慣になった。
スマートフォンで動画を開きながら歩く。それがルーチンになっている。
そして、俺はあるサムネに目を留めて、背筋が寒くなった。
それはあずきの動画だ。
サムネイルに、アリエル、受肉!? とある。
(まさか、な)
そう思いつつ動画を開こうとした時のことだった。
「たっけちゃーん」
車のクラクションが鳴る。
振り向くと、最近同僚になった川瀬涼子が窓から手を振っていた。
「なにー? こんな寒い中徒歩出勤ー?」
「雪国育ちで寒いのは慣れてるので」
愛想笑いを浮かべる。
社会慣れするっていうのはこういうことなんだろうなと朧気に思う。
正直俺は、涼子が苦手だ。
髪の毛は茶髪だし煙草を吸う。距離の詰め方は急だし物怖じしない。
所謂遠慮しないキャラ。
そういうところが、俺の中の警鐘を鳴らすのだ。
「乗ってきなよ。暖房効いてるよ」
「そんな、悪いっすよ」
「目的地は一緒。使うガソリンも一緒。遠慮しーなーいー」
筋は通っている。
そうなると、反論の仕様もない。
俺は素直に、好意に甘えることにした。
俺が助手席に乗ると、車はすぐに発進した。
煙草臭いな、というのが素直な感想だ。
「たけちゃんさー、食事とかどうしてんの? 自炊とかしてる?」
「お隣さんが作りすぎる人なんで甘えてますね」
おかげで最近三キロほど増えた。
「たまにはぱーっと外食とかいきたくならない?」
「ちまちまサンドイッチ屋とかいったりはしてますよ」
「ああ、エイミーちゃんとね」
からからと笑う。
俺は思わず拗ねてしまう。
「卑怯だなあ。そっちだけ事情通だなんて」
「有名税だよ、有名税。有名人は大変だなあ」
他人事のように言う。
「よし、お姉さんがラーメン奢ってあげようじゃないか。今日は私のオススメのラーメン屋へ連れて行ってあげよう。決まりだ」
唐突に言われて、俺はきょとんとした。
しかし、仕事仲間の誘いとなれば無下にもできない。
難儀なことになってしまったな、というのが素直なところだった。
続く




