不吉な予兆
「いやー、デートは久々だねえ」
エイミーが上機嫌に言う。
「旧友同士の買い食いだ」
俺は律儀に訂正する。
「あら。年頃の男女が買い食いに出かけたらそれはデートじゃない?」
反論の言葉を失い、口の中に言葉にならないもやもやとした気持ちが残る。
「義理堅いね、君は」
「まあなー」
「私への連絡を絶ったのは唐突だったけどね」
エイミーが他の男の話をするのが面白くなかったのだ、なんて今更言っても詮無いことだ。
俺達は久々にサンドイッチを買いに来ていた。
しばらくはエイミー効果で立ち入るのも難しくなっていたパン屋も、客足も元通りになりつつある。
早朝に並んで、近況報告をしあい時間を潰す。
なんだかんだで居心地の良い友人なんだよな、と思う。
その時、カラスの鳴き声を聞いて、俺は戸惑った。
都会にカラスは付き物だが、近すぎやしないだろうか。
「ああ、最近ストーキングされてるんだ。気にしないで」
冗談めかしてエイミーは言う。
冗談になっていないんだよなあ。
なんとかフルーツとカツのサンドイッチを確保して例の公園に出る。
池はアヒルボートで一杯だった。
「もう隠れ家って感じじゃなくなっちまったな」
「ガーンって感じ」
エイミーは心底落胆したように言う。
「お前が悪いんだぞー。私生活を切り売りするから。テレビでも紹介されちまったんだからな」
「そっかあ。まあ登録者数二百二十万突破したからエイミーは満足です」
相変わらずとんでもない数字だ。
「お前、月何万ぐらい稼いでるの?」
「うーん」
エイミーは考え込む。
「まず、桁が違う」
でしょうね。
その時、エイミーが悲鳴を上げた。
見ると、エイミーの帽子に鳥の糞が落ちている。
「お前、最近運気落ちてないか?」
「それがねー……殺害予告なんかも来ててね」
「そりゃ穏やかじゃないな」
俺は真顔になる。
「警察には連絡したのか?」
「相手は引っ越し済みだったよ。現在行方不明」
なんだか深刻な事態になっているようだ。
エイミーは二カッと笑った。
「大丈夫。こんな時のための男マネだ。上手くやるよ」
「なら、いいけどな」
エイミーは帽子をどうしたか迷ったようだが、結局放り捨てて、上着を頭に巻いて髪の毛を隠した。
正味、その姿は変人だった。
続く




