神々の誘い
鬼瓦事件が幕を閉じた後、俺とアリエルはスマホから放たれた光に飲み込まれてクーポンの世界へと呼び出されていた。
そこで待っていたのは、ウリエル、女神、ヒョウンの三人だった。
女神は、たおやかに微笑んで言った。
「良くやりましたね、アリエル。見事、姉を討ち果たしました」
「はは、勿体ないお言葉ですにゃ……」
まだ振り切れていないのだろう。アリエルは力なく微笑んで言う。
俺は若干デリカシーがないのではないかと内心憤慨した。
しかし、そんな感情は次の瞬間に吹っ飛んだ。
「天界への帰還を許しましょう、アリエル。そして、神格として活動するが良いでしょう」
俺は息を呑んで、アリエルを見た。
アリエルが帰る? 離れ離れになる? 今更?
考えられないことだ。
アリエルは俺を見て、ふっと苦笑した後、前を向いた。
「残念ながら、謹んでお断りします」
女神は目を丸くした。
そしてその後、悲しげにその瞳を細める。
「姉のことを引きずっているのですか?」
「それがないと言えば、確かに嘘になりますにゃ。けど……女神様。私は地上が好きですにゃ。人間が好きですにゃ。彼らを守る天使が必要だと言うならば、私は喜んでその礎となる所存です」
女神は優しく微笑んだ。
「そうですか。貴女は貴女の道を見つけたのですね。では、岳志に問います。貴方は、天界に来るつもりはありませんか?」
思わぬ方向から話が飛んできた。
天界? 向かう? 俺が?
なんで?
正直、混乱したというのが本音だ。
「あの、急展開すぎてわけがわからないというか……」
「雷の魔術を駆使して神格を持つ天使を破壊した。貴方を神格を持つ者と認めぬ者はいないでしょう。そうですね、身分は見習い天使辺りからかしら」
良い提案だ、とばかりに女神は顎に指を当てて思案する。
俺は焦ってしまう。
「ちょっとちょっと待ってくれよ。俺には地上にすげえ可愛い彼女がいるんだからな。天界とか言われても困るぜ」
「こんな機会、滅多にあることではないのですよ?」
勿体ない、と言いたげに女神は言う。
「今まで通りで十分だ」
俺は投げやりに言う。
「俺は退魔師でこいつはその相棒。俺達コンビは人類の平和のために戦うのだ」
女神はしばらく思案していたが、そのうち滑稽そうに微笑んだ。
「本当、欲のない人達ね。残念ながら、神格になることを拒否するならば、貴方からは雷の魔術を封印しなければなりません。その封印を解く日を、私は楽しみにするとしましょう」
そう言うと、女神は俺に手をかざした。
サンダーアローというスペルがロックされたのがわかった。
変化球のイメージもついて使い勝手も良くなってきたところだっただけに残念だ。
「それではまた会いましょう。困った時はいつでも私達を頼りなさい」
そう言うと、女神達は消えていき、俺達は元いた世界に戻っていた。
そして、時間は現在に戻る。
着物姿のアリエルが目の前で尻尾を追いかける猫のようにくるくると回っている。長い髪は結い上げ、白いうなじが眩しい。
なんでこいつはこう俺のトラウマを刺激するのだろう。
そりゃそうだ。トラウマの張本人が仕掛け人だからだ。
「にゃ、どうにゃ? 岳志、ちょっとは私に惚れたりするにゃ?」
「駄猫に惚れる日が来たら俺は魔王になって世界を滅ぼすよ」
「スケールデカすぎにゃ!」
「仲良いわねえ……」
呆れたように先輩が言う。
「いや、あの、これは」
「行くわよ、初詣。雫さんが車出してくれるから」
「全員乗れるかにゃー」
「荷台に何人積めるかな」
上機嫌に言って歩いていくあずきに、俺と先輩はなんとも言えない表情で顔を見合わせた。
続く




