あの戦いの後で
軟式王子の話題はピークを過ぎた。
と言うか、人助け、それもカップル成立の話題が三つどどんと繋がって、その後に大会が控えているという異常な状況に、エイミーキャロラインという大物VTuberという人気者の知名度が合わさってできた奇跡の瞬間最大風速だ。
軟式王子。
そんな話もあったっけな、程度に世間は思い始めてくれている。
年を超えた。
俺と先輩は二人きりで、といきたかったが、まあ賑やかな面々と初詣に向かうことになった。
子供も多いし、絡まれる可能性も高いし、時刻は人の少ない昼。
「アリエル、あんたも着物着なさいよ」
そう言って、先輩が晴れ着を用意したものを持ってくる。
「いいねー。アリエル美人だから似合うと思うよー」
エイミーも乗っかってくる。
「にゃにゃ、アリエル着せ替え人形じゃないにゃ」
アリエルは困ったように言う。
「良いから着替えた着替えた」
そう言って服を脱がせられ始めるアリエル。
俺はあずきの手によって室外にご退去となった。
あの駄猫が着飾ったところでなあ。
そんな思いがある。
許可が出たので入ってみると、そこに待っていたのは絶世の美女だった。
細身な体を包む着物。白いうなじの細さにくらりときた。
「……変かにゃ?」
アリエルが俯いて、おずおずと言った様子で言う。
「ま、孫にも衣装って感じかな」
くくく、とエイミーが笑った。
「私が初めて浴衣着た時もおんなじこと言ってた」
場の空気が強張った。
「同級生以下には素直じゃないんだこいつは」
呑気に語るエイミーにほだされるように、場の空気も和らいでいった。
こんな日常があるのもあの誘いを断ったからだよな。
そんなことを、俺は回想する。
続く




