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大歓声の中で

 その後のことについて、色々あった。

 まず、鬼瓦はコンビニを荒らしたことがカメラにばっちり映っていて警察行きとなった。司法の判断を待っている状態だ。

 六華の過剰防衛についてだが、証拠不十分において無罪放免となった。それはそうだ。あんな小娘があんな惨いマネができるなんて普通は考えない。


 エイミーは高級マンションに引っ越し、男性のマネージャーも雇った。重い荷物を運ぶ人がついて便利だと言っている。どうやら雇い人の立場を利用してこき使っているようだ。

 そして、先輩と俺の関係だが。

 アリエルの件について黙っていたことについて最初は拗ねられたが、天界との事情を察してくれていたらしく、次第になあなあで元通り話してくれるようになった。

 まあ、これは今は俺に好感を持ってくれているからだろう。

 好きが嫌いに変わった瞬間、相手の行為の一挙一動まで嫌いになるのが女性だと誰かが言っていた。

 十分に注意する必要があるだろう。


 そして、俺達は大会を順調に勝ち進め、まさかの決勝。

 試合は全国中継され、俺の知名度は不本意なことにますます上がった。

 軟式王子なんて呼ばれている。

 ◯◯王子ってもう古くね?


 雛子が録画してくれたデータを元に相手投手の攻略は進んだ、と思いきや、突然の全国中継だ。

 所詮は町内会の草野球チーム。

 固くなって空振ることエラーすること。


 皆高校野球や大学野球で鳴らした口のはずなのだが、その本領が発揮されない。

 結局、アリエルの四球からの出塁からの俺のホームランの二点で一点ビバインド。

 そのまま九回の裏を迎えた。


「正直さっきはたまたま突っ立ってたら四球になったけど」


 アリエルがぶっちゃける。


「自信ないにゃあ」


 ここに来てそれを言うか、と言った感じである。

 逆転の目があるとすれば、アリエルと俺のクリーンアップで点を取るしかない。


「それにしても岳志、背伸びたにゃね」


「ああ、七センチ位伸びたからな」


「なんか青年になったって感じにゃ」


 なんかそう素直に褒められるとむずむずする。


「アリエル」


「なんだにゃ?」


「左打席に立て」


 アリエルが真っ青になる。


「マジでアレをやるのにゃ?」


「そのための訓練だろ。実際練習での成功率は八十パーセントまで伸びた。お前人外で足速いからな」


「うう、上手くいくかにゃあ」


「ここまでの三打席で球の軌道は目に焼き付いただろう」


 アリエルはバットを握りしめ、しばし考え込んでいたが、頷いた。


「やるにゃ!」


 球場がざわつく。

 アリエルが左打席に立つ。

 今までなかったこの展開に、初見の人間は一同動揺している。


 スイッチヒッター? ならば、何故今までそれを活用しなかった?

 皆、疑問に思っていることだろう。


 相手投手は戸惑いながらも、一球目を投げた。

 アリエルは咄嗟にバントの構えに切り替えて、球を弾きながら、一塁に向かって駆け出した。

 意表を突かれたサードが全力で走って捕球するが、投げるのを諦める。

 アリエルは悠々セーフ。


 そして、俺の打順がやってきた。

 勝つも負けるも、俺の肩にかかっている。

 その緊張感が心地良い。


「岳志くーん」


 どこからか、先輩の声がした。


「かっ飛ばしちゃえ!」


 俺は親指を立てると、バットを構えて打席に立った。

 鬼瓦だって打てたのだ。

 今なら、なにも怖いものなんてない。


 相手投手が振りかぶって、投げた。

 済んだ金属音が響き渡った。



第一部 完









休憩時間の変更で次回から投稿時間がやや遅れたり遅れなかったりすると思います。ご了承ください。

そして、第一部の完結まで付き合ってくださってありがとうございました。

またしばらくは封印していた気楽なノリでやっていってシリアスにドーンなパターンになるかと思われます。

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