決戦
俺は怒っていた。
エイミーを囮として使って危機に陥らせたことにも、先輩に血反吐を吐かせたことにも、アリエルの土手っ腹に穴を開けたことにも怒っていた。
鬼瓦は笑っている。
この瞬間を待っていたとばかりに、
「楽しそうだな、鬼瓦。いや、エリセルか?」
彼の場合は、背後の堕天使が魂を乗っ取っている可能性というのも十分にありえる。
しかし彼は否定する。
「楽しいのさ、井上。中途半端になった俺達の勝負に、決着をつけることが出来てね」
そう言って、鬼瓦は、氷を投擲した。
速い。見たこと見ないスピードだ。ただし、今の俺なら叩き落とせる、
そう思った次の瞬間、俺は硬直することになる、
氷の球は、まるでスライダーのように、縦に滑り落ちる軌道を取った。
背後に飛んで躱す。それを読んでいたかのように鬼瓦に接近された。
拳と短刀がぶつかり合う。
「はっ、今でも俺の決め球は見切れていないようだな!」
「決め球……だと?」
脳裏に思い浮かぶあのコールドゲームの試合。
脳裏に刻みついたスライダーの軌道。
ああ、と声を上げそうになる。
眼の前にいるのは紛れもなくあの時の少年なのだ、と。
自由になっていたもう一本の短刀が相手の首筋狙って走る。
それを、相手は後方に飛んで躱した。
このままじゃ、コールドゲームのあの日から負けっぱなしだ。
それだけは、嫌だった。
「岳志、その鎧なら魔法は……」
アリエルは小声で囁く。
俺は、それを片手で制した。
アリエルはしばらく戸惑うように黙り込んでいたが、そのうち苦笑した。
「男の子にゃねえ」
そうして、俺と鬼瓦は三度対峙した。
続く




