天使と堕天使を憑依せし者達
俺は一足飛びで先輩の傍に移動すると、抱きかかえて、大幅に距離を取った。
そして、ヒールを唱える。
血で濡れた先輩の表情が和らいでいく。
「しばらく、そこでじっとしていて」
先輩は無言で、一度も、二度も、頷いた。
そして、次は俺はアリエルの傍に移動した。
アリエルは腹に突き刺さった氷を溶かしているところだった。
「ヒール」
俺の唱えたスペルで、アリエルの表情が和らぐ。
「時間は稼いだにゃ、相棒。だがこれは、最早私の戦いでもあるにゃ」
「助かったぜ、相棒。ここからは、共に戦おう」
そう言って、俺は双刀を鞘から抜いた。
アリエルの姉、エリセルが、鬼瓦の影に吸い込まれていく。
そして、二人は完全に一体化した。
鬼瓦の体が筋肉で膨張する。
この空間でなら五体満足で戦える。
そう断言した彼の言葉を思い出す。
「あっちがそうやるなら、こっちもそういくにゃよ」
アリエルが言う。
言わんとしていることはわかるのだが、若干抵抗がある。
黙り込んでいると、アリエルが怒鳴った。
「なに照れてるにゃ、やり辛いにゃ! 単なる協力プレイにゃ!」
「照れてねーよ、うるせーよ駄猫! さっさとやれ!」
駄猫が俺の影に入ってくる。
色々な記憶が流れ込んでいた。
猫混じりと揶揄された少女時代の記憶。
守ってくれた姉。
料理上手で優しかった姉。
その姉の、アリエルが神格として認められた時の凍えるような視線。
全てを背負ってアリエルは戦おうとしている。
ならば、俺も覚悟しなければならないだろう。
因縁の相手である鬼瓦光太郎との決着に。
天使を憑依させた俺。
堕天使を憑依させた鬼瓦。
俺達は対となる存在のように向かい合った。
世界は丁度、俺達を境目にしたように、黒と白で分かれ合っていた。
続く




