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剣対拳 魔対魔

 拳が刹那の速度で放たれる。

 それを辛うじて躱すと遥は相手の脳天に鉄パイプを振り下ろした。


「メェェェェェェン!」


 躊躇する余裕はない。

 相手はコンビニエンスストアのアイスケースを投げるような化け物なのだ。

 流石に脳天への一撃は効いたのか相手はふらつく。


 そこに、躊躇なく追撃を続けた。


「胴!」


 腰に向けて一撃を放つ。

 肋骨の折れる確かな感触がした。


 アリエルと堕天使の魔法合戦が横では続いている。

 一進一退。

 アリエルの炎が押している時もあれば、堕天使の四種属性魔法が押している時もある。

 結局、遥がこのヴィジュアル系の少年を倒しても、堕天使をどうにかせねば状況はどうにかならないのではないか。


 そう思いつつも、元体育会系の遥はベストを尽くすことを選んだ。

 痛みに苦しんでいたヴィジュアル系の少年の顔に笑みが浮かぶ。

 それにぞっとしながらも、遥はもう一度脳天目掛けて鉄パイプを振り下ろした。


「その動きは、見た」


 背筋が寒くなるような一言。

 鉄パイプが掴まれて、ねじ切られた。

 そして、遥は腹を殴られ、血反吐を吐きながら後方へと吹き飛んだ。

 意識が朦朧とする。立ち上がろうとする気すら起きない。


「先輩ちゃん!」


 アリエルがこちらに意識をやる。


「甘いねえ。甘い甘い」


 巨大な氷が堕天使の手によって何本も生成され、一斉に放たれる。

 それは何本かは溶かされたが、アリエルの腹部を貫いた。


 絶望。

 その二文字が、脳裏に浮かぶ。

 この先に待っているのは、間違いなく死。

 そうと確信できる。


 ヴィジュアル系の少年が一歩一歩近づいてくる。

 堕天使の手に、大規模な炎の魔術が生成される。


 もう終わりだ。


(ごめんね、岳志君。もう、デート、できないや。けど、怒らないよね……?)


 小動物を見捨てて逃げるなど、彼だって賛成はしないはずだ。

 だから、これで良いのだと、遥は結論付けた。

 そして、遥は死を受け入れた。


 いや、そんなわけはない。

 遥のような小娘がそう安々と死を覚悟できるはずがない。

 体は震えているし、目からは涙が出てきている。

 立ち上がれないのにねじ切られた鉄パイプを構えようと持ち上がらない腕を持ち上げようと足掻いている。


(助けて、王子様――)


 その時のことだった。

 黒一色の世界が、白く塗りつぶされた。


「相変わらず、お前らの分断策には呆れるぜ。鬼瓦光太郎」


 そう言ったその人は、井上岳志その人だった。

 遥は安堵のあまり、目からぽろぽろと涙をこぼした。

 ここからが逆転だ。そんな確信があった。



続く

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