勇気
黒猫が飛び、鬼瓦の手によって棚が引っくり倒される。残っていた客は驚いて店内を出ていく。
アリエルの目的は時間稼ぎだ。
岳志さえ来ればなんとかなる。今までだってそうだった。
第一目的の遥の逃亡は達成できた。
後は自分も適当な時間を見つけて切り上げれば良い。
しかし、なんて怪力だ。
アイスケースを投げつけられて、アリエルは舌を巻く。
岳志がクーポンの世界でしか使えない力をそのまま使っているかのような。
これが、アリエルと、姉のエリセルの差と言われればそこまでかもしれない。
そして、それでも彼の肘は治らないのだろう。
アイスケースを投げた後、彼は肘を抑えて蹲った。
引き際だ。
そう思い、入口に向かって駆ける。
「そう来ると思っていたよ、アリエル」
また、エリセルの声がした。
鬼瓦は肘を抑えながらも一足飛びで移動して、一瞬でアリエルの尻尾を掴み取った。
アリエルは宙ぶらりんになる。
「さて、手こずらせてくれたな。一思いに殺すのも惜しい。どう痛めつけてやろうか」
絶体絶命だった。
アリエルは、こんなに岳志に会いたいと思ったことはない。
コンビニは既に壊滅状態。
警察か岳志かどちらかが間に合ってもおかしくはないのだが。
その時、コンビニの扉が開いた。
「小手!」
勇ましい声が響いて、鉄パイプが振るわれる。
それは、鬼瓦の手を強かに打ち付けた。
思わず、鬼瓦は手を離し、アリエルは自由になる。
逃がしたはずの遥が、戦場に舞い戻ってきていた。
「小動物に暴力振るうなんて、サイッテー」
そう言うと、遥は鉄パイプを剣に見立てて構えをとった。
ああ、この直向きさ。
なるほど、これが岳志が惚れた女か。
苦笑して、体勢を整え直したアリエルだった。
こうなれば、岳志の到着まで粘るしかないだろう。
続く




