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エイミーの危機

「エイミー!」


「エイミー?」


 部屋の前で大柄な男達がノックしている。

 エイミーは涙目になりながら通報してパトカーが来るのを待っていた。


 岳志にも連絡しようかと思ったが、それはいけないと思ってやめた。

 彼はやってきてしまう。

 この危機の中にやってきてしまう。


 彼の才能が野球界の宝だということはエイミーもおぼろげに知っている。

 こんなことで怪我させるわけにはいけない。

 その時、駆け足の音が扉の外で止まった。


「おお、集まりに集まったな」


 感心したように言う。

 岳志だ。岳志の声だ。


「駄目だよ、岳志! 逃げて!」


 エイミーは思わず叫んでいた。

 次の瞬間、エイミーは不思議な空間に迷い込んでいた。

 どこまでも白くてなにもない空間。


 エイミーと、外国人の男衆と、岳志だけがいる。

 男衆達の影からは、魔物のようなものが浮かび上がっていた。


 岳志が地面を蹴る。

 一足飛びで彼はエイミーをお姫様抱っこして掻っ攫って男達から距離をおいた。


「エイミーが!」


「俺達のエイミーが!」


「小さな騎士、お前が現れてからおかしくなった!」


 男達は口々に叫ぶ。

 岳志はしばらくシリアスな表情で罵詈雑言の数々を受け止めていたが、そのうち表情を崩した。


「ソーリー、アイキャントリッスンイングリッシュ!」


 何故か自信満々にそう言うと、彼は右腕を振りかぶった。


「ファイアアロー、連弾!」


 炎の矢が次から次へと投じられる。

 それは、男達の影から浮かび上がる魔物を次々に焼き払い、時には貫通して数匹まとめて処分した。

 気がつくと、その場に立っていたのはエイミーと岳志だけだった。

 場所も、元のマンションに戻っている。


 岳志に両肩を捕まれ、エイミーはどきりとする。


「エイミー、お金はあるんだから、もっとセキュリティの良いマンションに引っ越すんだ。あと、男のマネージャーを雇え」


「けど、離れたくないよ、岳志」


「こんなとこにファンが押し寄せるなんて、住所が割れてる」


 岳志の言葉に、息を呑む。確かに、その通りだ。


「どの道、引っ越しは必要だ」


 そう言うと、岳志はエイミーに背を向けた。


「いいか、警察が来るまで部屋に鍵をかけて籠もってるんだぞ」


「いてくれるんじゃないの……?」


 エイミーは心細い思いをしながら言う。


「それに関しては本当に悪いと思う。けど、他にも、危険な目に合ってる人がいるんだ」


 エイミーは思わず、先程までの恐怖感も忘れて、くすりと笑った。


「岳志はまるで、スーパーヒーローだね」


「よせやい」


 スーパーヒーローはそう言うと、息せき切って来た道を戻り始めた。

 エイミーは扉を締めて、鍵をロックすると、警察が来るのを待ち始めた。

 五月蝿かった騒音がなくなり、ただ静寂がそこにはあった。




続く

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