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アリエル物語

 先輩をコンビニまで送って、一緒にアルバイトをして、大学まで送り届けると、俺は家に帰った。

 隣の部屋からは、アリエルの歌声がする。

 聞くものを魅了する天使のソプラノ。


 そう言えば、最近あずきとカラオケに行くと度々出かけてたっけ。

 俺はしばらくぼんやりと、その場で待つことにした。

 なんとなく、あずきの配信画面を開いてみる。

 アリエルへの称賛で一杯だった。


 アリエルが認められている。

 それだけで、こちらまで幸せな気分になる。

 駄猫は駄猫だが自分の居場所があるのは良いことだ。


 しばらくの雑談の後、アリエルは家に帰ってきた。


「スパチャ荒稼ぎしてきたにゃ」


 上機嫌にアリエルは言う。


「良かったな。待機時間、暇だろうし、ゲームでも買ったらどうだ」


 アリエルの表情にクエスチョンマークが浮かぶ。


「岳志にしては優しいにゃね」


「別に。お前の駄猫っぷりにも慣れてきただけだ」


「ふうん」


 興味なさげにそう言うと、アリエルはパソコンを起動する。

 本当にゲームを購入するつもりらしく、ネットで関連サイトを閲覧し始めた。


「なあ」


 なんか父と娘みたいな距離感で嫌だな、と思う。


「なんだにゃ。思春期の娘と父親みたいなその態度」


 アリエルは苦笑交じりに言う。

 心が通じ合っているみたいで嫌だな、と思う。


「お前のお姉さんの話、聞かせてくれないか」


 アリエルの顔から表情が消える。


「喋ったのはウリエルかにゃ」


 感情のこもらぬ声だった。

 俺は返事ができない。

 アリエルは一つ、ため息を吐いた。


「まったく、我ながら人望がない……まあ、今に始まったことじゃないけどにゃ」


 そう、拗ねたように言って背もたれに体重を預ける。


「お姉ちゃんの話を聞いて岳志は何がしたいにゃ?」


「ただの興味本位だ」


「そう素直に言われると清々しいにゃね」


 アリエルは苦笑交じりに言う。


「私の姉はね。天使族の天才児で、神性を持つものだったにゃ」


 神性を持つ?

 予想外の言葉に、俺は驚き戸惑う。

 それはつまり、神に近い存在か、それに等しい存在ということではないか。


「そしてそれは、猫神の血を引く私も同じ。私達は腹違いの姉妹だったにゃ」


 そう言って、アリエルはとつとつとアリエル物語を語り始めた。



続く

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