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天界大戦

「なにから語るべきだろにゃあ……」


 アリエルはそう言って遠い目をする。

 丸い眼鏡越しに金色の瞳が憂いを帯びる。

 そうしていると本当に美少女なのにな、と俺は思う。


「天界には神、天使、精霊の三種族がいるにゃ。その順番に位が定められているにゃ。天使は神には逆らえない。精霊は天使には逆らえない。そういった具合にゃ」


「カースト制度みたいなものか」


「まあ、私は人間界の事情には疎いけど、多分そんな感じにゃ」


 そう言ってアリエルは肩を竦める。

 その顔から、表情が消えた。


「ある日、天使の一人が画策したにゃ。神を追放したらもっと住みやすくなるのではないかと。彼女は不平を持っていた精霊達を束ねて決起したにゃ」


「結果は?」


「鎮圧されたにゃね。大半は迷宮に送られたにゃ」


「大半?」


 聞き捨てならない言葉だった。


「逃げ落ちた天使や精霊がいるんにゃよ。彼らは堕天し、人間界で負のエネルギーを貯めて再起を図っている。これが退魔師と悪霊の構図にゃ」


 俺はアリエルの言葉を何度も頭の中で反芻する。


「それは、女神とやらが出てきて鎮圧すればいいんじゃないか?」


「それが相手の巧妙なところにゃ。名代として人間を使っている。表向きは人間同士の抗争にゃ。天界は手出しできない」


 その線引の曖昧さに俺はモヤモヤとしたものを感じたが、そういうものなのだろう。


「私も、ウリエルも、ヒョウンも、親族が反乱に加担した天使だったにゃ。だから贖罪として事態の収集への協力を努めているにゃ」


 その一言に、俺は目を見開いた。

 それは一体、どんな気持ちなんだろう。

 親族と離れ離れとなり、さらにその業を背負う。


 底抜けに明るくて脳天気なアリエルにそんな過去があっただなんて。

 俺はアニメの主人公のようにアリエルを抱きしめることなんて出来ない。そんな勇気は沸かない。

 ただ、手を握った。


「お前も苦労してるんだなあ……」


 アリエルは苦笑する。


「身内の不祥事で苦労をかけてるのはこっちだにゃ。やめてほしいにゃ」


 そう言うと、アリエルは手を引っ込めた。

 その手を、あらためて握る。


「俺とお前のタッグで、鬼瓦の奴を開放してやろう」


 アリエルはぽかんとしていたが、すぐに悪戯っぽく微笑んで、その手を握り返した。


「そうにゃね。私達コンビなら楽勝なミッションにゃ」


 いつの間にか、俺達のコンビも中々に長いものになっていた。

 手と手は、しっかりと握られていた。

 そして、ふと思う。

 鬼瓦を倒したら、アリエルはどうなるのだろうか、と。

 アリエルのいない生活なんて、今となっては考えられない。そう感じる自分自身に、俺は戸惑った。



続く

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