暗躍する者
決闘のフィールドに、俺とビジュアル系の男が立っていた。
俺は男を睨み、男は微笑み顔で俺を見ている。
「貴文を始末したってどういうことだ」
俺は問い詰める。スルーして良い出来事ではなかった。
「文字通りさ。首を捻りとってやった」
俺は絶句する。
例え先輩を強姦しようとした犯罪者とは言え、その罰は重すぎる。
「俺の正体を君に話したのが悪い」
「……その、隠していた正体を明かした理由はなんだ」
「なに、俺はこの世界でしか五体満足に動けぬ身でね。今日は楽しみにしてきた」
そう言って、彼はどこからともなくバットを取り出し、俺に放り投げる。
それを俺はキャッチする。
「野球、しようぜ」
そう言うと、彼は俺から離れていき、一定の距離を保って止まった。
その手には、いつの間にか硬球が握られている。
戸惑うしかない。
何故この儀式が必要なのか。
問いかけたいが、それもまた面倒だ。
俺は無言で、バットを構えた。
「懐かしいな。その隙のない構え。沢山対戦してきた中で君だけが脅威だった」
対戦経験がある?
その言葉に、俺は困惑した。
こんなビジュアル系の男と対戦した覚えはないのだが。
しかし、男がダイナミックに振りかぶると、そんな疑念は払拭された。
コールドゲームで俺のチームに勝った二刀流の彼。
当時は坊主頭だった彼の姿が、今の彼の姿と完全に重なった。
直球が走る。
インコースの厳しいところ。
辛うじてファールにする。
「当てるとは流石だね。君は紛れもなく、俺が対戦してきた中で一番の天才だった」
「……どうも」
相手の手に再び硬球が握られる。
そして、二球目が放たれた。
体が勝手に反応していた。
相手の得意球のシンカー。
その軌道は脳裏に焼き付いている。
金属音が響き渡る。
ボールは高々と飛び、遠くまで飛んでいった。
ビジュアル系の男は滑稽そうにケタケタと笑った。
「これだ。本当に才能を持ちし者。俺は、君が憎い」
「なら、練習すればいいじゃないか。現実世界で、俺達は良いライバルになれる」
「残念ながら、それはもう許されないんだ。俺は今回決め球を封じていたけどね」
そう言って、ヴィジュアル系の男は苦笑する。
「これからも俺は君の前に立ち塞がることだろう。覚悟しておくことだ。君の不幸は俺の愉悦なのだから」
「お前は……俺を狙い撃ちにしているということなのか?」
俺は衝撃を受けながら問う。
男はにいと微笑むと、地面に卵を叩きつけた。
巨大なオークが現れる。
「嫉妬の具現化。キングオーク」
そう言うと、男はスマートフォンを取り出した。
「じゃあ、君が生き延びられたらまた会おう」
そう言うと、男はスマートフォンを操作して、この世界から消えてしまった。
キングオークが巨大な斧を振り上げ、俺に向かって駆けてくる。
俺は装備一式を呼び出して装備すると、腰を落とした。
続く




