初デート
「どこへ行きましょう」
駅のコインロッカーに荷物を預けて言う。
デートプランぐらい男が考えるべきなのかもしれないが、悲しいことに経験が少ない。
エイミーとの経験が多少はあるが、あれは所詮子供のお遊びの延長線上だった。
「どこが良いと思う?」
先輩は面白がるように言う。
「エスコートしてよ、王子様」
くすぐったい。
そう言われてしまえば頭を捻るしかない。
こんな時、漫画のキャラクターとかだったらどこへ行ったか。
「うーん……」
俺は腕を組んで考え込んだ。
「映画でも行きます?」
有りがちなセンだった。
「いいね。見たい映画あったんだ」
そう言うと、先輩は歩き出した。
その横に並んで歩く。
五分ほど歩くと、ショッピングモールに辿り着いた。
その中の映画館で、券を二枚買うことにする。
「画面真ん前と中央と最後尾どこがいいですかー?」
「真ん前は首が疲れるよ。中央かなー」
「了解」
券を発券する。
「お金払うよ」
「いえ、オゴリで。退院祝いです」
先輩はくすぐったげに微笑んで券を受け取る。
そして、購買へと足を向けた。
「そしたら、ポップコーンは私のオゴリだ。Lサイズ頼むかんね」
「ははは、ごちになります」
元気になって良かったなあ。
そんなことを思う。
劇場内に入る。
丁度、映画泥棒の放送をやっているところだった。
平日なので人はまばらだ。
小声でこそこそと話す。
失敗だったと気づいたのは、映画が始まってからだ。
迷惑になるので、話すことが出来ない。
側にいるのに、遠く感じる。
長年連れ添った恋人ならそれもありだろう。
しかし、初デートでこれは隔離されたような孤独感を覚える。
ただ、気も漫ろにポップコーンを食べた。
それが尽きて、腕掛けで手が重なった。
慌てて引っ込めようとする。
そこで気がついた。
震えている。
先輩が震えている。
何故?
その原因に気がついて、俺は先輩の手を取って、劇場を出ることにした。
「出ましょう」
「え?」
「良いから早く」
先輩は無言でついてくる。
外に出て途中のダストボックスにポップコーンのゴミを捨てる。
そして、映画館の外に出た。
「今から面白くなりそうだったのに」
先輩が不満げに言う。
俺は、呆れ混じりに言った。
「先輩。映画なんて、震え混じりに見るもんじゃないですよ。暗闇の中で、痴漢が出ないか、怖かったんでしょう?」
先輩は黙り込む。
俺も迂闊だった。
完全な暗闇に集まる人々。
先輩の不安を掻き立てるには最悪のシチュエーションだ。
「岸、変えましょう。もう一つ、思い当たる節がある」
そう言って、俺は前を歩き始めた。
先輩が後を追ってくる。
そして、さり気なく俺の手を取った。
好感度が、ちょっとだけ上がったのかもしれない。
そんな、初デートの出だしだった。
続く




