たまたま横に立ってただけにゃ
「岳志、私の真横に急いで移動して!」
そのアリエルの言葉には有無を言わさぬ圧迫感があった。
慌てて、アリエルの真横に移動する。
次の瞬間、部屋の中のゴミを巻き込んだ暴風――いや、暴風なんていうのも生温い――が俺達に襲いかかっていた。
「フレイムドーム!」
アリエルが唱え、ドーム状の炎が俺達を守る。それは一瞬たわんだが、なんとか狂風をやり過ごしきったようだった。
炎が解かれる。
「たまたま岳志が隣にいただけにゃ。私は別に助けてないにゃよ」
なるほど、そういう理屈はありなわけね。俺は苦笑する。
そして、俺は見つけてしまった。
狂気の表情を浮かべる旧・風の精霊の奥。
迷宮の宝箱。
かつて俺に、ファイアとヒールの魔法を授けてくれた宝箱と同じもの。
どうしても欲しい。
手に入れれぬものか。
「岳志、クーポンを閉じて。完璧に狂化してる。これは無理だにゃ」
「アリエル」
「なんだにゃ」
俺の頭に、思い浮かぶものがあった。
それは今と同じ、絶望的な状況。
覆せない自体。
「死にたくなかったら頭上に炎の傘を出現させとけ」
「にゃ?」
「魔術はイメージ、だろ?」
そう言って、俺は微笑んだ。
続く




