嫉妬する?
「じゃあ、春武、わかってる? 今回の事件の元凶」
俺は、愛の言葉に頷いた。
安らぎの時間は過ぎ、戦いの時間が舞い戻って来ようとしていた。
「ああ、わかる」
愛は俺から目をそらす。
「正直ね、私。春武がいなかったらその人と付き合ってたと思う」
俺はぎょっとした。
そんな大層な相手だったのか。
「嫉妬する?」
後ろめたげに愛は俺を見上げる。
今度は俺が視線を逸らす番だった。
「あー、いや、そういう相手なら今回みたいな事件を起こすのも納得かなぁと」
「そっか」
淡々とした口調で愛は言う。
その心境は推し量れない。
「それじゃ、よろしくね」
愛の手に光が宿る。
それはいかなる魔力の効果も無効化する特殊な光なのだ。
光が俺を射抜いた。
その瞬間、俺は目を開いていた。
病院の天井だ。
俺は飛び起きると、俺の様子を伺っていた刹那と頭をぶつけた。
「いった~」
俺は頭を抑えてのたうち回る。
「危ないなあ、私に頭突きするなんて」
刹那は平然とした調子だ。
「けど良かった。アリスちゃんの言う通り意識が戻ったわね」
現実の世界に戻ってきた。
愛を救い出すためにも元凶と戦わなければならない。
「俺、ちょっと行ってくるよ」
刹那に言う。
刹那は思案顔だ。
「こんな状態だったんだから少しゆっくりしていけば?」
「夢の世界に愛を一人置いてはおけない」
そう言って立ち上がる。
バックを視認すると、着替えて、窓に足をかける。
「じゃ、行ってくる!」
そう言って俺は、窓から外へと縮地で飛び出した。
足を魔力で強化。
力強く地面に着地する。
そして駆け始めた。
教室では授業の最中。
扉を開くと、俺はその男を視線で射抜いた。
「沢村。ちょっと話があるんだけど良いか」
愛の吹奏楽部の先輩、沢村。
彼以外に今回の事件の元凶は考えられなかった。
沢村は俺を見るときょとんとしたような表情になり、次に剣呑な表情になった。
「なんの用かのう、六階道」
「六階道君、意識戻ったの? と言うか、授業中よ?」
教師が困惑したように言う。
俺と沢村は睨み合って視線を逸らさない。
ざわめきが教室を包む。
「愛を返してもらう」
なにか勘違いがあったのか黄色い声が上がった。
沢村は溜息を吐くと、立ち上がった。
「先生、ちと野暮用じゃ。授業勧めといてくれ」
「ちょっと、沢村君!」
沢村は俺に向かって歩いてきた。
彼は異能を身につけている。
どこから異能が飛んでくるか。
俺は魔力を全開にしてその瞬間に備えた。
つづく




