あんたってほんとバカ
思いついたのは電話だ。
パネルフォンを開く。
愛の名前が登録されていなかった。
何故だ?
愕然とする。
まるで消しゴムで俺の歴史から愛の名を消そうとしているかのような。
仕方なく引き返す。
「里美さん、刹那は?」
家に帰るなり叫ぶ。
メイドの里美がすぐに顔を出した。
「もう出かけたよー。春武さん学校は?」
「緊急事態!」
電話帳なんてものもない。
仕方ない、刹那に電話する。
「刹那、緊急事態だ。キャロライン家に連絡を取りたい」
「良いけど、藪から棒ねえ。またアリスちゃんに挑戦?」
「緊急事態なんだ」
「良くわからないけどいいわよ。電話番号確認してラインで送るね」
電話が切れた。
すぐにラインが送られてくる。
浮かび上がった数字には、ノイズが走っていて良く見えなかった。
「どうなってやがる……」
俺と愛との接触を遮断しようとするかのような。
けど、わかったことがある。
徒歩移動は可能だ。
この世界は物理法則までは捻じ曲げられていない。
刹那が車で任務に出たのもその証拠だ。
ならば、新幹線に乗れさえすれば、愛に会える。
銀行口座の残高をパネルフォンでチェックする。
お年玉の残りが預金されているはずだ。
しかし、やはりノイズが走る。
現金しか手はないか。
「里美さん」
俺は里美に緊迫した口調で言う。
「すぐに返すからお金貸してくれないか?」
「いいけど……学校は?」
「緊急事態なの!」
アリスが消えた今、誰に言っても信じてもらえないだろう。こんな状況。
借りられたお金と記憶の中にある情報を整理すると、東京までは届かない額だった。
つづく




