夢の世界
俺の前に立った人物がフードを脱ぐ。
アリスだった。
「なにしてんだ、アリス」
「落ち着いて聞いて」
そう言って、アリスはしゃがみこんで俺の肩に手を置く。
「現実の貴方は昏睡状態。ここは夢の世界なの」
俺は息を呑む。
咄嗟には信じられないことだ。
しかし、アリスがこんな嘘を付くとも思えない。
「現実の貴方はもう中学二年生よ。東京で生活していて、愛ちゃんとは交際関係になっている。その愛ちゃんも、夢の世界にいるの」
「俺達の身内だけが昏睡状態に陥ってるってことか?」
「いいえ。貴方と、愛ちゃんの二人だけ。二人とも、過去の記憶の中で生活しているわ」
俺は腕を組んで考え込む。
閃くものがあった。
「愛に無効化の光を打ってもらえば良いんじゃないか? 愛とも俺みたいに接触したんだろ?」
「そこで出てきた問題なんだけどね。愛ちゃんは半神だから、無効化の光で自分を消してしまう可能性があって……半分魔法生命体の可能性があるのよ」
それは大事だ。
俺はさらに考え込む。
「エイミーさんに現実の俺に無効化の光を打ってもらうとか」
「お姉ちゃんは生憎収録旅行中」
「そういやそうだった」
Vtuberエイミーチャンネルは日米を股にかけている。
神出鬼没なのだ。
「ともかく、この状況を長引かせておくのは良くないわ」
「相手の思惑通りに進むってことだからなあ」
「だから春武、東京に行って夢の中の愛ちゃんに……しまった、気づかれた」
そう言うと、ノイズが走ったようにアリスの体がブレた。
「いい。東京へ。東京へ行くの。そこで、愛ちゃんから無効化の光を……」
言い切る間もなくアリスの姿は消えた。
さて、難題だ。
これが夢だとわかると記憶が蘇ってきた。
東京での日常。辰巳達との学園生活。そして恋人の愛。
現実の俺は昏睡状態だという。
縮地を使えばすぐだ。
そう思って地面を蹴って屋根に登ろうとした俺は、数歩先へと着地した。
「縮地が……そうか、縮地を覚える前か。この俺は」
そうなるとどんな手段があるだろう。
京都から東京。子供の交通手段ではその道程は中々長かった。
つづく




