おっかしいなー
おかしいな。
京都の六階道邸で目が覚めた。
それが当然なことなのに、最初に感じたのがおかしいな、だった。
まだ夢の中にいるかのようだ。
世界に現実味がない。
昨日まで別の場所で寝起きしていたようなそんな感覚。
自分が本来いるべきではない場所にいるという感覚。
「春武ー」
刹那が扉を開けて顔を覗かせる。
「朝の修行と野球の練習」
そう言えばそうだった。
フォームも修行も体に馴染ませなければならない。
俺は起き上がると、自分の手を見た。
まだ小さく細い手。
なんだか今日はそれが以前より心許なく見えた。
刹那とトスバッティングを開始する。
「今度の試合、アリスちゃん見に来るかねえ」
呑気な口調で刹那は言う。
「来るんじゃない。付き合い良いから」
「愛ちゃんも来るかねえ」
ドキリとした。
何故ドキリとしたかは自分でもわからない。
ただの幼馴染ではないか。
「あいつなんだかんだ言いつつ試合は見に来るんだよなあ」
「相手投手が有望株なんだっけ」
「辰巳って奴でさ。百四十キロ投げるバケモノさ」
「春武の歳でそれは凄いな」
刹那は感心したように言う。
(ん? 辰巳……?)
昨日までもっと身近にいたような。
おかしいな、感覚が狂っているなんてものではない。
違和感を覚えつつも修行を終え、登校路に着く。
そこに、黒いローブを被った人影が降り立った。
「貴方をぬるま湯から出してあげる、春武」
彼女は、そう宣言した。
つづく




