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まだだよ!

 倒れ伏したギシカを、ギシニルは冷ややかな目で見つめる。

 我が子を見る目ではない。

 これが魔族。


 根本的に違う生き物だと痛感させられる威力がその視線にはあった。

 ギシカはキッと前を向く。


「まだだよ!」


 ギシカの額が浅黒くなり、額に角が生える。

 そう、今のギシカは自分の変身を百パーセントものにしているのだ。

 先ほどとは段違いの速さでギシカはギシニルに肉薄する。


 拳、と見せかけて水面蹴り。親父の十八番。

 それをギシニルは片足を上げて避けると、下ろした。

 鈍い音がした。


「ぐう」


 悲鳴のようなギシカの声が上がる。

 骨がひしゃげていた。

 次の瞬間に再生が始まるが、それを待たず、ギシニルはギシカを蹴り飛ばした。

 放物線を描いてギシカは飛んでいく。

 その着地点に向かって、ギシニルは跳躍した。


 肘打ちが入る。

 ギシカは転々と転がっていく。

 そして、動かなくなった。


「ギシニル。娘相手にやりすぎじゃねえか」


 親父がバツが悪そうに言う。

 人間ならば体罰だと言われるところだろう。


「……俺は、見定めたいのだ。六華とギシカの十三年を」


 ぴくり、とギシカが動いた。

 そして、立ち居上がる。

 物凄い再生能力。


 ギシニルの顔に、初めて笑みが浮かんだ。


「まだだ!」


「それでこそ、俺の娘だ」


 ギシニルは歓喜しているようだった。

 自分の娘のポテンシャルに。

 確かにポテンシャルだけなら俺達の仲間で随一の少女なのだ、ギシカは。



つづく

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