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楽しい食卓

 ギシカは家族で囲む食卓に鯱張っていた。

 なにせ、初めて会う父だ。

 魔界に住んでいるとは聞いていたが、確かにギシカがキレた時に出るような角が生えている。


 精悍な若者だ。

 若い。

 二十代にも見える。


 母も歳より若く見えるが比較にならない。


(この人、本当に、お父さん……?)


「ほら、ギシカ。聞きたいこととかあるんじゃないの?」


「えっと、それじゃ、馴れ初め、とか」


「覚えてない」


 静寂が場を覆った。

 六華は苦笑している。


「まあ当時は混乱の中だったしね。敵味方だったこともあったし。まあ距離を縮めたのは戦後処理の時かな。私が出向して魔界の政治体制を作るのに協力したんだ」


「ほとんど六華がやった。俺等傀儡のようなものだ」


 淡々とした口調で、事実のみをサラリと述べる。


(どうしよう、この人……)


 とっつきづらいタイプだ。そう思ってしまった。

 母はどうやってこの男と距離を縮め、ギシカを作ったのだろう。

 気にならないわけではなかった。


 しかし、苦手意識を持つとギシカは硬くなる。

 習性というものは中々治らない。


「鍛錬の方は積んでいるか?」


 父がこちらを見て言う。


「実践訓練は少々……」


 普通の中学生にむちゃを言ってくれるものだ。

 ふと、父の表情が緩んだ。


「六華に似た顔立ちだ。とても良かった」


 そしてつまらなさげに鼻を鳴らす。


「鼻っぱしの強さは受け継がなかったようだがな」


(ひいい)


 萎縮するしかないギシカなのだった。


「それじゃあ試させてもらうぞ、お前の訓練とやら」


 そう言って父は立ち上がる。


「って言うと?」


「俺と戦え」


 母は頭を抱えていた。

 ギシカも頭を抱えたいような状態だった。


「不足だと思えば魔界で鍛え直す。お前は魔王の娘なのだからな」


 魔王の娘?


「初耳なんだけどお母さん!?」


「だって真顔で貴女は魔王の娘よって言ったら信じる?」


「信じない」


 ぐうの寝も出ないギシカだった。



つづく

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