榊無名
榊無名は何の変哲もない社会人だ。
ただ一つ、特別な能力を持っていることを除けば。
それは、スキルの付与。
執念を持つ相手にそれに沿ったスキルを付与できるのだ。
自分のこの才能に気付いたのは十五の頃だった。いじめで悩む友達の相談を聞いていたら、その少女が突如思考を読めるようになったのだ。
彼女は結局そのスキルを活かしていじめグループを壊滅へと追い込んだ。
それから無名は様々な人間にスキルを付与した。
消費者金融でクビが回らなくなっている大学生。ブラック企業で心を病んだ社会人。
皆、無名のスキルで憂さ晴らしをした。
それが無名にはとても愉快なことのように思えられた。
無名は自分の能力で人が破滅していくのを見るのが好きだ。
だから、それを邪魔した存在の確認をしたいと思った。
会ってみると、酷く真っ直ぐな心をした少年だった。
スキルの付与を繰り返している内に、無名には人の心のようなものが見えるようになっていた。
(面白くないなあ……)
どうにか彼を、無名に跪いてスキルを乞う持っていないものに貶せないだろうか。
白い紙に墨汁をぶちまけるように、彼の心を黒くできないだろうか。
調査を進める必要があるだろう。
無名はこの時初めて、人を壊す自分の性癖に気づきつつあった。
無名は悟られない。
無名は暗躍する。
だからきっと、誰も無名をただの一般人と思い続けるだろう。
狙われた人間が気の毒だと他人事のように無名は思い、軽薄に笑った。
つづく




