魔界の事件
ギシニルは、再び口を開いた。
「魔界で、ある連続事件が起こった」
「事件?」
六華が戸惑いつつ問う。
「何人もの悪魔が急に喋れなくなるという事件だ。その犯人を突き止め、拷問にかけたところ、模造創世石を使って能力を得たと白状した」
「それって……」
俺は思わず声を上げる。
今俺達の身に起きたことと似すぎている。
六華は俺を見て一つ頷くと、ギシニルに話の続きを促した。
「続けて」
「そんなわけがないのだ。あの膨大な魔力。使われたなら気づかないわけがない。しかし現実としてその悪魔は、自分から会話を断った対象の言葉を奪うという能力を有していた。腑に落ちない」
それは確かに腑に落ちない。
「六華。なにかお前が知っていることはあるか」
「有り体に言えばある」
六華は頷く。
「つい最近、私達の周辺でも似たような騒ぎが起きていたってことよ」
「人界まで足を運んだかいがあったな」
ギシニルは座り込む。
「この事件、裏に誰かがいるぞ。それも、一癖も二癖もある奴がな」
「事件はまだ……終わってない?」
愛が戸惑うように言う。
俺は抱き上げたままの愛を、強く抱きしめることしかできなかった。
「それはそれとして一日で魔界にとんぼ返りってわけじゃないんでしょ?」
六華は微笑んで言う。
ギシニルは気まずげな表情になる。
「お、まあ、それはそうだな」
「娘にあっていきなさいよ。結構育ったんだから」
「六華似か?」
「うん、良く似てる」
「俺に似なくて良かった」
大真面目に言うギシニルに、妙な不器用さを感じてしまって顔を見合わせて苦笑する俺と愛だった。
+++
愛と千紗をそれぞれの家に送り届けた後、俺は一人家路につく。
先生事件は黒幕が何処かにいる。
それが誰かは未知数だが、本当ならば今後も皆の身に危険が及ぶ可能性があるということだ。
どんな黒幕なのだろう。
想像もつかない。
歩いていると、向かいから女性が歩いてきた。
「やあ」
女性は軽薄な笑顔を浮かべて、俺に話しかけた。
つづく




