事件も終わりを告げ
「結局、模造創世石案件だったらしいよ」
翌日の投稿路で愛が言う。
「俺も聞いたよ。親父も天界もまずったよな」
「けど春歌は半信半疑みたい。記憶の確認もされたみたいなんだけど、おかしいんじゃないかって」
「だけど記憶は確認されたんだろ?」
辰巳が口を挟んでくる。
「けど世界変革レベルまで創世石の力が高まったら必ず探知されてるはずだって言い張ってるのよ」
「それも一理……あるな」
事件は終わった。はずだ。
しかしなんだろう。ざわざわとした感覚がある。
何かが腑に落ちない。
ピースの欠けたパズルをさせられているような感覚。
「先生は可哀想な人だった。けど、俺の肘を治してくれた恩人だ。俺は立派になって先生に会いに行く」
「単純でいいわね。春武みたい」
「お前のその嫌味なとこは誰に似たんだ?」
敵わない、とばかりに辰巳は言う。
「育ちが違うのよ」
愛はつんとして言う。
なんにせよ日常が戻ってきた。
「これからは愛も部に復帰だねー」
翔吾が跳ねるような口調で言う。
「大会には間に合いそうでほっとしてるわ。自主練はしてたんだけどね」
そうか、今日から愛は野球の練習を見に来なくなるのか。
脅威に備えて集団で行動する必要がなくなったのだからそれも必然だ。
「大丈夫なのか? その、先輩との関係とか」
「カラッとした人だから嫉妬はしなしんじゃないかな」
その信頼感に俺がちょっと嫉妬。
「ギシカー、さみしくなったらお前も野球やれよな」
俺は無駄だとわかっていつつもギシカに声を掛ける。
「知らない人一杯、苦手」
母と仲直りしても染み付いた性格は治らないらしい。
その時、俺のパネルフォンが鳴った。千紗からの連絡だ。
「もしもし、緊急事態だよ」
切迫した口調で千紗は言う。
「なんだ?」
「富士山の火口から飛び出す人影が撮影された」
俺は息を呑む。
「それって……」
「岳志さんが一線で戦ってた頃以来の、魔界からの訪問者だよ」
富士山の火口には魔界への門が眠っている。
ハーフデビルのギシカですら人並みはずれた再生能力を持っている。
本物の悪魔なんてどれほどタフなんだ?
想像するだけで嫌になる俺だった。
だってギシカって土下座でコンクリートにヒビ入れるし腕ちぎられても再生するんだぜ?
つづく




