私達なら遠距離でも大丈夫だよ
その日の夕飯は豪盛だった。
親父の奢りで親父の遠征先で店の貸し切りパーティー。
東京の面々も続々集まった。
俺は色々な人々から褒められ撫でられ、ふらふらになりながら店を出た。
そこには、愛しい背中。
愛だった。
夜空を見ているようだった。
愛は振り返る。
「大人ってやーね。集まったら呑むんだから」
「そんな大人ばっかじゃないだろ」
しばし、沈黙がその場に漂う。
背後からどっと言う笑い声。
それに押されたかのように愛の隣に並び、共に夜空を眺める。
「私達なら遠距離でも大丈夫だよ」
愛がぽつりと、呟くように言う。
「むしろそっちの方がボロが出ないかも?」
「相変わらずだが散々な言われようだ」
俺は苦笑するしかない。
「それにまだ帰るって言ってないだろ」
「大人が許さないでしょ」
「俺、反抗期なの」
「反抗できるのー? 刹那さんに」
痛いところを突かれる。
自分の恋も家庭も放置して俺を育ててくれた刹那。
彼女に反抗できるかと言えばそれは否だ。
ただ、救いはある。
「今回先生を退治したことで刹那に魔力が戻った。跡継ぎ云々はまだ先の話になるんじゃないかな」
旧家六階道家の跡継ぎ。
そんな大層なものに俺がなれるかはあやしいが(そもそもプロ野球選手志望だし)、責任を感じねばならぬところだろう。
「ふーん」
愛は疑わしげに俺を見ると、苦笑した。
「ま、期待せずに待ってるわ。どっちのルートを選ぼうと。春歌と競い合う京都も一つの道。辰巳君と競い合う東京も一つの道」
「……ありがとう」
感謝するしかない。
「春武ー? こんなところにいたの?」
刹那が扉を開けて出てくる。そして愛に目を向けて苦笑した。
「ごめん、邪魔しちゃったわね。岳志が春武は何処だって煩くて」
「いいんです。私も戻るところだったから。じゃ、刹那さんに任せます」
そう言うと、愛は店の中に入っていった。
「別れは済んだ?」
刹那は微笑んで言う。
まだ知らないのだ。俺と愛が交際していることを。
「大変だったわよね、いきなり大人の仕事任されて。けど、明日からはまた京で修行をつけて、料理を作ってあげる」
「ううん、別れない」
刹那は目を丸くする。
「俺は東京に残るよ、刹那」
俺は強い決意を胸にそう言っていた。
「それがなにを意味するか、わかってる?」
刹那は考え込むように、そう言っていた。
静寂が場を包んだ。
つづく




