最強の戦士
春武は意識が朦朧としていた。
自分の心が徐々に自分から手放されていくような感覚。
なにか自分が新しい別の者になろうとしている。
そんな予感があった。
心地良い。
ぬるま湯に浸かっているかのような。
今にも溶けてしまいそうだ。
その時、差し出す手があった。
「春武!」
辰巳の声だ。
「意識を取り戻せ! お前はまだここで消える奴じゃない!」
「消え……る?」
「お前は俺のライバルだろ! こんなところで消えるな!」
「ライ……バル?」
辰巳はもどかしげに言う。
「お前、野球を忘れられんのかよ!」
今の一体感は心地良い。
けど、そこから伸びるように自我が生える。
マメの潰れた手の感触が蘇る。
そうだ、野球。
親父と俺の絆。
愛の認めてくれたもの。
俺の根幹を形作る競技。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は雄叫びを上げていた。
+++
「あーいー」
愛は意識が朦朧としていた。
なにか自分が一つになりかけている予感がある。
しかし、抵抗はない。
むしろ、歓喜のような感覚がある。
「駄目ね、これは。本格的に取り込まれかけてる」
愛は意識が朦朧としていて返事ができない。
「挑みもせずに逃げるの?」
春歌は挑発するように言う。
「エイミー・キャロラインに」
冷水に打たれたように我に返る。
そうだ。まだ自分は母に挑んでいない。
まだ何も始まってない。
こんなところでぬるま湯に浸かってはいられない。
愛は自分の意識が徐々にはっきりしていくのを感じた。
+++
閃光が放たれた。
ギシカは再び吹き飛ばされる。
しかし次の瞬間には再生して飛びかかっている。
「頭を吹き飛ばせば流石に終わるかな」
先生は淡々とした口調で閃光を指に集中させる。
ギシカはぎくりとした。
その瞬間、後方から爆発的な魔力が巻き起こっているのを感じた。
春武と愛。神格クラスの魔力を持つ父と母を持つ二人の合体。
それも、技量と身体能力の春武、回復能力と無効化の光を持つ愛。
互いに足りないものを補完し合う合体。
出来上がるのは、最強の戦士。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
春武の声が、その場に響き渡った。
最強の戦士は、生まれた。
つづく




