原因
翌日、目が覚めると愛は肌着で寝ていた。
自分の部屋だ。ギシカの部屋ではない。
姿見を見ると自分自身の肉体がそこにはあった。
「なんだったんだろう……」
思わず呟く。
唐突に終わったギシカとの入れ替わり。
それともあれそのものがなにかの夢だったのだろうか?
確認のためにギシカに電話をかける。
「体、元に戻ってた!」
ギシカの興奮気味の声が、あれが夢ではなかったことを教えてくれた。
その日の放課後、愛は春歌を訪ねていた。
「そっか、戻ったんだ」
興味なさげに春歌は言う。
「何が原因だったのかしら?」
「愛ちゃんは何が原因だと思う?」
試すように春歌は問う。
「やっぱりメンタルが不安定なギシカじゃないかな。なにか嫌なことがあったとか。あるいは春武と恋人になりたかったとか」
「そうじゃないんだなあ」
春歌はちっちっちと扇子を振る。
「不安定だったのは貴女だよ、愛ちゃん」
思わぬ言葉に衝撃を受ける。
「私が? 不安定?」
あり得ない、とばかりに言う。
「春武の口から、嘘偽りのない愛してるを聞きたかった。それで貴女は不安定になって、ギシカちゃんの体を借りたんだね」
愛は口元に手をやる。
確かにそう考えると、元に戻ったのも納得がいく。
「私って……そんなメンタル弱い?」
「私達は良くも悪くも思春期なんだよ。それも、魔力を持った。色々起きるさ」
達観した様子で春歌は言う。
「これからもこんな事が起きるのかしら?」
「起きないだろうね」
「どうしてそう言い切れるの?」
「自分が原因だとわかって貴女に自制心が芽生えたから。ブレーキが自然とかかるようになっちゃったんだね」
沈黙する。
つまりなにか、今回のことは何から何まで私が悪いと。
愛は脱力した。
「腑に落ちたわ。ありがとう。春武達と合流してくる」
「送らせるよ。道中の護衛は必要でしょ」
「ありがと」
そこまで春武のことを考えて自分を追い詰めていたのか。
そう考えていると頬が熱くなる。
「未熟、未熟」
そう呟いて、愛は天を仰いだ。
こうして、小さな事件は一つの結末を迎えたのだった。
それから数日、愛は春武と口を利かなかった。
あの告白を聞いた後だと、小っ恥ずかしくて、話す気にならなかったのだ。
つづく




