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お前、愛じゃないだろ?

 昼休みの時間にギシカは愛にお願いされていた。

 その内容に気乗りしないギシカだった。


「春武に呼び出された?」


「そうなのよ」


 体が入れ替わっている現状だ。

 愛は自分で行きたいだろうが今は愛の体にはギシカの魂が宿っている。


「弁当作るって約束してたんだけど体が入れ替わって仰天して忘れててさ。ギシカ、軽く誤魔化してくれない?」


「軽く言ってくれるなあ」


「寝不足だった、ごめん。で済ませれば良いから。バレないわよ、あんな鈍感なやつに」


 自分の彼氏なのに酷い言い草だ。

 仕方がないので、ギシカは愛の体で屋上に出た。


 春武が風を浴びていた。

 揺れる前髪に心がどきりとする。


 ああ、自分の初恋はまだ終わっていないのか、と再実感。


「春武」


「おお、愛か。弁当楽しみにしてたんだぞ?」


「いや、その、あのね。昨日ね。夜ふかししちゃってね」


「ないのか?」


「うん、その、ごめんね?」


 春武はまじまじとギシカを見る。

 見つめられてドキドキする。

 思わず、俯く。


「お前、なんか変じゃないか?」


「変なんかじゃないよ」


「いや、口調からしておかしい。お前らしくない」


「後ろめたさからだよ。そういう日もある」


「そうかあ? お前なら逆ギレの一つぐらいかましそうなもんだけどな」


 沈黙が漂う。春武は胡散臭げに愛を見ている。

 こいつのどこが鈍いのだ。

 いや、鈍いのだ。愛のことに関してだけは鋭いのだ。

 普段傍にいるだけに。


「……お前、愛じゃないだろ?」


「突拍子もない言葉だと思わない?」


 ギシカは慌てて言い返す。

 春武はしばし考え込んでいたが、そのうちひとつ頷いた。


「それもそうだな。弁当、明日頼むぜ」


 そう言うと春武は去っていった。

 愛がひょっこりと出てくる。


「もう、どこが鈍いんだよ。春武勘がビンビンじゃないか」


「ごめんごめん、あいつならわからないて思ってたんだけどね」


 にっこにこの愛。


「……上機嫌で何よりで」


 自分を理解されていて嬉しいのだろう。

 その気持ちはわかる。

 わかるのだが釈然としないギシカだった。


 学校も半分が終わった。

 放課後には春歌の下へ急がなければ。



つづく

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