その手で春武に触ったら……
愛とギシカは早朝の登校路で向かい合っていた。
ギシカは腕を組み、強気な様子。
愛は俯きがちで、おどおどした様子。
中身が逆になると印象までまるで違う。
「どういうことだと思う?」
愛がギシカの口で問う。
「アリエルさんに言われたことある。ギシカと愛の魔力の波長は似てるって」
「その影響がこの現象を引き起こしたってこと?」
「だと思う。そうとしか考えられない」
「それだけ?」
愛は剣呑な表情でギシカを睨めつける。
「あんた、春武に未練があって私の体を乗っ取ったんじゃないでしょうね」
ギシカは仰天する他ない。
「そんなことない! 私、そんな事考えもしなかった!」
「その手で春武に触れたら……酷いわよ」
「勿論だよ、指先一本触れたりしないよ!」
愛はしばらく胡散臭げにギシカを睨めつけていたが、そのうち溜息を吐いて視線を落とした。
「どうしよう?」
「春歌に相談する他ないんじゃないかな」
「やっぱそれかあ。陰陽連にあんま貸し作ると怖いけど」
「そうかな? 慈善団体だよ」
「理解してないのねーあんた。私達今の時点で相当利用されてるわよ」
そう言われてみるとそうかもしれない。
「とりあえず当面はこの体で乗り切るしかない。ボロを出さないようにね」
「わかった。春武達には?」
「……言わなくて良いかな、心配かけたくないし。けど、くれぐれも」
ずいっと愛は顔を近づけてくる。
「特権乱用とばかりに春武に近寄らないで」
「距離置いとくよう」
気弱に答えるしかないギシカだった。
+++
英語の授業がやって来た。
ギシカは早速当てられる。
「貴女のお母様は海外の大学を卒業して若くして都知事に就任しています。これぐらい答えられますね? 井上さん」
いつもこんな調子で当たられているのか、と愛は呆れ混じりに思った。
完全な回答を答える。
教師は目をパチクリとさせる。
「さらに応用としてはこのような文例も考えられます」
ネイティブな母を持つ愛特有の知識を活かした応用も見せる。
「まあ、先生は勿論ご存知でしょうが」
「ええ、結構です。井上さん、流石ですね」
気まずげに教師は言い、手早く次のページに進む。
(苦労してんだ、あれで)
そんなことを慮った愛だった。
ギシカは今頃どうしているだろう。
つづく




