誤魔化しと居直りと
「どうしてそう思った?」
俺は動揺しつつギシカに訊ねていた。
ギシカはしばらく落ち着かなさげに視線を彷徨わせていたが、そのうち口を開いた。
「なんか愛ちゃん、普段より春武に素直だし、春武もそれを違和感なく受け入れてるし。雰囲気違うなって」
「そんなのちょっとした変化じゃないか。それでどうして付き合うとかどういう話になるんだ」
「だって、なんか、変なんだもん」
沈黙が場を漂った。
「付き合ってるわよ」
俺の表情を伺っていた愛は、淡々とした口調で言った。
「この前、私から告白して、付き合ってる。私達は恋人ってわけ」
俺は頭を抑える。
幼馴染同士微妙な気まずさがある。
しばしの沈黙が漂った。
ギシカは俯いて自信なさげな笑みを浮かべていたが、そのうち苦笑した。
「そっか」
「文句ある?」
「ないよ」
ギシカは微笑んで言う。
「愛ちゃんは同い年だけど私のお姉ちゃんみたいなものだし、従兄弟の春武はお兄ちゃんみたいなもの。二人が付き合うなら私は祝福するよ」
俺は肩透かしを食らったような気分になった。
こんなにすんなり行くなら最初から話しておけば良かった。
「じゃ、私、よるとこあるから」
そう言ってギシカは道を別れる。
「敵に襲われたら魔力を高めるんだぞ。それで、俺と春歌は気づく」
「わかってるよ」
そう言って、ギシカは手を振って、去っていく。
「なんだ。なんてことなかったな」
俺は安堵しつつ言う。
「……裏切らないでね」
愛の言葉に、俺はどきりとした。それはどういう意味だろう。
愛はさっさと前を行き、俺に考える暇を与えてくれなかった。
+++
何が悪かったんだろう。
自分にもチャンスはあったはずだ。
ギシカの脳裏に渦巻いているのはそんな思考だった。
けど、仕方ないかと達観しているギシかもいる。
あの二人は犬猿の仲だったが、ああして素直になるとお似合いだ。
だから、自分にできることは二人を祝福すること。
そう思った。
ぽろり、と涙が溢れた。
「あれ、私、なんで、泣いて……」
ああ、初恋だったのだ。
人生で初めて人に恋をしたけど、失敗したのだ。
そんな実感が、後から後から湧いてくる。
口からは声にならない嗚咽が漏れ、目からは涙が溢れ出る。
ギシカはしばらく、泣いた。
つづく




