なんのために私がいるのよ
「なんのために私がいるのよ」
春歌は呆れたように言うと、扇子を一振した。
壊れた屋上が元通りの姿に戻る。
俺達の魔力の動きを察知してワープしてきたのだ。
「で、聞かせてもらおうか。なんでこんなことになったのかを」
少年は正座で項垂れている。
「向後の憂いを断つ、と言っていた」
「向後の憂い、ね」
「俺達は四人とも顔も知らなかった。ただ、廃校に集められ、先生に魔力? を目覚めさせられ、悪霊を植え付けられた。その時から、皆人が変わってしまった」
「悪霊を植え付ける?」
春歌が眉を潜める。
「そんな技術、天使クラスじゃないと無理よ」
「けど、実際植え付けられたんだ」
春歌が俺を見る。
「実際、そいつは悪霊憑きの状態だった」
春歌は顎に手を当てる。
「ううん……もしかしたら、その先生って人は、人間じゃないのかもしれない」
「堕天した存在とでも言うのか?」
「もしくは、模造創世石を手にした時に世界にルールを付け加えたか。抜け道があるのかも」
「けど納得がいく。悪霊憑きが都合良く先生の周囲に集まりすぎていた。植え付けられるってんなら納得だ」
「そうね……確かにこの前の球場の悪霊憑きの数は異常だった」
沈黙が漂う。
わからないことだらけだ。
「とりあえず、俺は照星とやらの襲撃に備えるよ。狙いは今は親父よりも俺達のようだ」
「そうね。ギシカちゃん達と行動を共にするように。貴方の魔力とギシカちゃんの身体能力が合わされば最強なんだから」
そうだ、まだ先生とは合体した状態で戦っていない。
活路はある。
「とりあえずは今日は解決だ。ご苦労だったな、ギシカ」
そう、俺はギシカを労う。
ギシカは春歌に直してもらった制服の袖を引っ張りつつ、俯きがちに頷いた。
「結局、春武を頼っちゃった。春武頼りになるんだもん」
いくらでも頼りにしろよ。そう言いかけて思い留まる。
俺には愛という恋人がいる。
誰でも庇う姿勢を崩さなかった親父とは違うのだ。
「そうだな。お前も修行したらどうだ?」
「んー、考えとく」
ギシカはそう言って俯いていたが、そのうちにへら、と笑った。
「ありがとう、春武。格好良かったよ」
なんか最近こいつ可愛くなった気がする。
そんなことを思った初夏に差し掛かったある日だった。
つづく




