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おかしい

 おかしい。

 戦い始めて一分足らずでそう思った。

 こいつ、戦闘し慣れている。


 俺だって刹那と散々模擬戦した経験がある。

 それに体力だけでなく技量でも追いついてくる。

 まるで、先生を相手にしているかのような。


 違和感が表情に出たのか、相手はほくそ笑む。


「気付いたか。俺は先生の戦闘の経験を付与されている」


 俺もほくそ笑んだ。


「そうと聞いてやる気が出た」


「良いのか? 王子様。お前がやられればお姫様は手籠めだぜ」


「まったく、早く正気に戻りやがれ!」


 カチンと来て、怒鳴り散らす。

 そして、けして先生ならば思いつかない策を即座に捻り出した。

 危機にひんしても冷静。

 親父との戦闘の賜物で、肝が座った。


 俺はあえて背後に隙を作る。

 先生の戦闘勘を持っているならばそれに気づかぬわけがないだろう。

 相手は背後から拳を振り上げようとする。

 俺はその体を、自分の体ごと長剣で貫いていた。


 退魔の長剣は対魔特攻。霊的生命体にのみ作用するこの剣は、相手の悪霊だけを取り除けるのだ。

 長剣を抜いて振り向くと、相手の胸からは黒い霧のようなものが漏れ出ている。それを抑え、少年は苦しげに呻いていた。

 俺は、その体を肩から両断した。

 と言っても、肉体は斬れない。斬ったのは悪霊だけだ。


 彼の瞳に正気の光が宿っていく。

 そして、彼は力なくへたり込んだ。


「俺は、なんてことを……」


 ほっと、長剣を降ろす。

 その時、嘲笑がその場に響き渡った。


「見事だよ春武君。私の経験を持ってしても今の攻撃は読めなかった」


「先生、か」


 霊気を探る。しかしあの莫大な混合力はどこにも見当たらない。


「どこにいる!」


「思念で話しかけているのさ。しかし残念だな。その攻撃は二度と私には通じない。そして私は霊的生命体ではないからその長剣そのものが効かないのだ」


 舌打ちしたいような気持ちにさせられる。

 手の内を見るのも目的の内、か。


「次が最後の一人だ。名を照星と言う。私の最高傑作だ。尤も」


 そこで先生は一つ、言葉を切る。


「これは私にとっては余興に過ぎないんだがね」


 再び、嘲笑。

 俺は魔力を爆発的に高めた。

 どこからか伸びた霊気の糸を圧殺する。

 そして、先生の声は消えた。


「先生が、あんな奴だったなんて……」


「聞かせてくれるか、先生のこと」


 俺の言葉に、少年は頷いた。

 そして、ふと思い出してギシカを見る。

 ギシカは、真っ直ぐにこちらを見ていた。


「大丈夫だよな、ギシカ。六華さんはその制服見て真っ青になるかもしれんが」


「春武!」


 興奮した様子でギシカは言う。


「なんだ?」


「やっぱり春武って格好良いね!」


 絶句する。

 そう言えばこいつにまだ言ってなかったなあ愛と付き合い出したこと。

 ギシカは爛々とした目でこちらを見ている。



つづく

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