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侮るなよ、三下

 ギシカを背にし、俺は少年と対面していた。

 ギシカは制服が腕からもげていて、そのもげた切端と切断された腕が少年の手の中にある。


 と言っても、ギシカの腕は再生済みなのだが。

 ハーフデビル、相変わらずの再生能力だ。


 しかし、ギシカをここまで追い詰めたとはこいつは侮れない。

 父と掻い潜った死線を思い出す。

 大丈夫、奮い立てる。そう思った。

 これは蛮勇ではない。

 守るための決意。


「お前達も意外と大した奴らじゃなさそうだな。先生が警戒した理由が良くわからなくなってきた」


 そう言って、少年は興味なさげにギシカの腕を放り投げる。

 べちゃり、と血が溢れる音がした。


 その気だるげな死線が俺を射抜く。

 魔力は大した事ない。しかし、霊力と混ざり合い、さらに悪霊憑きの加護を受けたことによって相当の混合力になっている。


「それが大胆な行動に出た理由か?」


「大胆?」


 怪訝そうに少年は言う。


「ここには監視カメラはないぜ」


 そう言うと、俺は扇子を一閃して退魔の長剣へと進化させた。

 退魔特攻。

 悪霊憑きの悪霊だけを斬る俺の縋るところだ。


 これがあるから、俺は人を殺さずに悪霊を祓える。

 少年はほくそ笑んだ。


「どうでも良くなったのさ。君達は大した事ない。今証明したからな」


「そうかな」


 縮地で一瞬の間に相手の懐のうちに入る。

 相手の目が驚嘆に開かれる。

 長剣を一閃。


 相手は後方へとバク転してそれを回避し、さらに蹴りを仕掛けてくる。

 やる。

 体術だけなら先生レベルかもしれない。


 けど、俺の対処できないレベルではない。それより数段下だ。今だけのやり取りでそう感じ取れる程度には勝負勘はある。


「侮るなよ、三下」


 俺は吐き捨てるように言うと、退魔の長剣を相手に突きつけた。


「お前を今正気に戻してやる」


「まるで今正気じゃないかのような言い分だなあ」


 嬌笑するように少年は言い、飛びかかってくる。


(正気じゃないんだよ)


 リスクを犯してギシカと争うのも、人の腕をもぐのも。

 俺は舌打ちしたいような気持ちにかられながら、相手に集中した。



つづく

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