ヒーローはやってくる
来る。
そう身構えていたが遅かった。
一瞬で懐に入られ、吹き飛ばされる。
内蔵に損傷。血反吐を吐く。
しかし、すぐに癒える。
ギシカは正面から相手に向かって駆け出した。
「へえ、脅威だな。今のは肋骨逝ったと思ったけど」
少年はこともなさげにギシカの攻撃を掻い潜っていく。
「それとも回復したのかな?」
興味本位、といった感じで腕を捻り上げられ、折られる。
声にならない悲鳴が漏れた。
しかし、次の瞬間には再生が始まっている。
あらぬ方向へ曲がった腕が元に戻る。
悪魔の父譲りの再生能力。
それがギシカにはあった。
「はは、ははは……ずるすぎだろお前、その体」
ふらつくように少年は言うと、頭を抑え、眼光を開いた。
「どこまで壊せば、その体、滅するか。試してみたくなった」
背筋が寒くなった。
初めて足が後ろに退く。
そこを突かれた。
突進で腕を捻り取られる。
痛い。
血が溢れる。
だからなお決意する。
同級生達をこの少年の危機に晒していてはいけない。
「うおおおおおお!」
ギシカは、キレていた。
こうなるとギシカは強い。
腕がみるみる内に再生し、握りこぶしを作ると、相手の腹部に叩き込んだ。
しかし、相手はそれを片手で受け止めている。
敵わない? キレた自分が?
戸惑いが怒りを迷わせる。
首に手をかけられていた。
「クビをもげば、流石に死ぬかな」
興味本位、といった感じで言う。
ギシカは母を想った。もっと一緒に過ごしたかった。
けど、無理なのか?
走馬灯のように記憶が蘇る。
その奥からの声。
懐かしくも暖かい魔力。
縮地を使った春武が、少年の手を蹴り飛ばしていた。
ヒーローはやって来た。
ギシカは気が抜けると、へなへなとその場に座り込んだ。
「春武、怖かったよ~」
「俺は腕をもがれた様子なのに再生してるっぽいお前が怖い」
まあそう言われるとそうなのだがそれはあんまりな台詞だと思うギシカだった。
つづく




