クーポンが使えれば
俺は下半身を開くと腰を降ろし、武闘の構えを取った。
辰巳が俺の肩に手を置く。
「春武」
「なんだ」
「市街地でやるのは流石に不味い。目撃者も出る」
「記憶を消せば良い」
「情報が残ったらどうするのよ」
愛が嗜めるように言う。
確かにその通りだ。
親父のバックアップに当たっていた陰陽連がここにはいない。
せめてクーポンの世界さえあれば。
そう思わずにはいられない。
親父が神から下賜されたクーポン。
その世界は敵の隔離にもレベルアップにも使えるという。
引き換えに、対象者はクーポンの世界でしかレベルアップの効力を受けれない。例外はあれど。
それさえあれば、眼の前の少年も隔離して倒せたはずなのだ。
相手はにこりと微笑む。
「状況を察してもらえたみたいで嬉しいなあ」
「親父の留守に俺達狙いか」
構えを解いて相手を睨みつける俺の言葉に場に緊張が走る。
「いやいや、ライバルと楽しい学園生活を送りたかっただけだよ」
そう言うと、相手は俺達に背中を向けた。
「さ、一緒に登校と行こうぜ」
その背中に退魔の長剣で斬りつければ、全て終わる。
終わるのだ。
なのに、それができない。
発達した社会。通学路に監視カメラがついていることも珍しくはない。
長剣を振り回す中学生の姿などあってはならないのだ。
俺は長剣に変化する扇子を震えるほど握りしめ、相手について歩き始めた。
「お前の狙い通りにはいかない」
「さて、なんのことかな」
相手はとことんしらを切る気のようだ。
こうして、混沌とした新しい日常が始まった。
つづく




