新しい日常
登校路。愛のパネルフォンがまた鳴る。
道に出てからもう二桁は越える着信だ。
「冴子さん?」
俺は呆れ混じりに言う。
若干、嫉妬も混ざっているのかもしれない。
それを敏感に察したらしく、愛は噛みついてきた。
「仕方ないじゃない、寂しいんだから。誰だって人恋しくなる時ってあるわ」
「お前が圭介だからじゃないかなあ」
圭介というのは愛の前世の名だ。
冴子の前世、由希と圭介は恋人だった。来世を誓い合うほどの。
それが状況をややこしくさせている。
「愛ちゃん、冴子さんに決めちゃいなよ。私、応援しちゃう」
朝から上機嫌のギシカが言う。昨日六華と一日過ごして充実していたらしい。
「つっても私、同性愛者じゃないんだけど」
愛が困ったように言う。
俺と愛が付き合っていることをギシカはまだ知らないのだ。
嵐の前のなんとやらか。
「しかしすげえな、お前の親父さん。これで勝ち数もホームラン数もリーグトップだぜ」
辰巳がしみじみとした口調で言う。
「まだ六月だぜ。気にするには早いよ」
「けど一ヶ月遅れでだぜ? シーズン頭から出てたらと思うと凄いことだよ」
「俺にもあれぐらいタッパがあればなあ」
親父は俺と違って高身長だ。と言ってもプロでは平均的な百八十ぐらいだが。
親父も俺ぐらいの頃は小さかったと言うしこれから俺も伸びると良いのだが。
「高校上がったら筋トレも解禁されるし、俺達ホームラン増えるぜ。これからだ」
「そうだな」
俺は苦笑する。
そうだ、俺達はまだ筋トレすらしていない。
勝負はこれからだろう。
その時、俺は濃厚な混合力の気配を察知して顔をしかめた。
道の先に、いる。
奇襲にしては大胆すぎる。
歩いていくと、気配の根源はにこやかにこちらに向かって手を上げた。
「君達も転校生なんだろ?」
気配の根源、少年は言う。
「君達、も?」
俺は強い気配に怖気を感じつつ言う。
「俺も今日からなんだ。混ぜてくれよ」
先生からの刺客は、そうにこやかに言った。
つづく




