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遭遇
「球場前に来てる。春武なら探知できるはず」
千紗の言葉に、俺は頷いた。
確かに来ている。
集団に紛れて、そいつは確かにいる。
愛の前世の恋人。
愛に視線をやる。
平静さを取り戻し、落ち着いた様子だ。
これなら大丈夫だ。俺は辰巳と視線を躱して頷きあった。
「行こう」
俺の言葉に、愛、辰巳、翔吾が頷く。
そして俺達は、名古屋ドームの外に出た。
やってくる人混み。
その中で立ち止まる少女が一人。
濃厚な悪霊憑きの気配を放っている。
俺達はそのまま、人気がなくなるまで向かい合っていた。
相手が、ゆっくりと口を開く。
「圭介、なの……?」
その時、俺は、愛の魔力に揺らぎが生まれたのを感じた。
まるで、別人の魔力が混ざったかのような。
「由希、か……?」
愛は、愛のものではない口調で言っていた。
前世の恋人達。二人が、出会ってしまった。
愛の今の恋人である俺はどう振る舞えば良いのか。
大丈夫だ、信じれば良い。
愛がいつも試合の時に、俺に信じ切った視線を向けてくるように。
愛を信じれば良い。
俺達は対峙して、しばし沈黙がその場を包んだ。
つづく




