なんだ
(さて、どうする)
駆けつつ思考する。
お洒落な商品でなければ愛は納得しないだろう。
今のところ愛の周辺に悪霊憑きの気配はない。
(東京来たばっかで正直土地勘はない。出たとこ勝負だな)
アドバンテージは脚力だろう。
俺は魔力を使うことで脚力を爆発的に上げることができる。
探れる店は増えるというわけだ。
まずは見つかった、一軒目。
中華料理屋。テイクアウトで肉まんがあると書いてある。
美味しそうな匂いではあるが、初デートで肉まんと言われたら愛は怒るだろう。
却下。
俺は一時的に探知の方向性を変えることにした。
人の集まっている場所は何処か。
探り始める。
「おい」
無心に探知していると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、部長がいた。女性を連れている。
「鬼瓦部長。何してるんですか」
「何って、夫婦で出かけているだけだが」
この人、結婚できたんだ。気難しそうなのに。そんな意外な事実を知る。
「なんだその莫大な放出魔力は。気になって来てみた。話してみろ」
俺は迷ったが、要点だけを摘んで説明することにした。
全てを語るのは照れ臭い。
「お洒落でワンハンドで食べられる商品の店を探してるんです。知人との勝負なんです」
「それなら良い店があるわ」
鬼瓦婦人が両手を合わせて微笑んだ。
「オススメよ」
「本当ですか?」
流石は地元民。聞いてみるものだ。
そうやって案内されたのは、フルーツワッフルの店だった。
これなら愛も気にいるだろう。
二個買うことにする。
「あまり魔力は放出するな。敵に気配を気取られるぞ」
部長は、別れ際にそう語った。
あの人、魔力を知っているし戦闘慣れしてる感じがあるしただの元野球選手じゃない気がするんだよな。
なんなんだろう、あの経験則。
俺は戸惑いつつも、元いた場所へと戻った。
愛は既に、待っていた。
「速かったわね」
愛は悪戯っぽく微笑む。
「良い品見つかったぜ」
そう言って俺は紙袋を持ち上げる。
「それじゃあいっせーので見せ合おうか」
「いいぜ」
互いに出したものを見て、互いに絶句した。
「ケバブ?」
「ワッフル?」
愛が持ってきたのは肉諾々のケバブ。
俺が持ってきたのはフルーツたっぷりのタルト。
「ケバブならタンパク質豊富であんたも気に入るかと」
「俺もフルーツタルトなら女の子は好きだろうなって」
沈黙が場を包んだ。
不意に、愛は苦笑する。
「なんだ。私達、きちんと互いのこと想いあえてるじゃん」
「恋人だからな、当然だ」
さらりと口から出た言葉に自分で頬が熱くなる。
しかし、愛の頬も火照っていた。
俺達の間に気まずい沈黙が漂った。
俺は愛の手を取った。
「いくか!」
「どこへ?」
「アヒルボート!」
「うん」
愛が弾んだ声で言う。
俺達はアヒルボートで憩いの一時を過ごした。
会話は少なかったが、くすぐったい雰囲気が漂っていた。
つづく




