父母の足跡を辿る
愛の母、エイミーは来日して、まずは次郎と暴君バハネロの洗礼を受けた。
その次にやっとしたデートらしいことが、有名パン屋のサンドイッチを買ってのアヒルボートでの昼食だ。
俺達はその足跡を辿ることにした。
まずはサンドイッチだ。
親父はカツパン、エイミーはフルーツサンドを頼んだそうだ。
エイミーはVtuberなので情報が赤裸々に語られた動画が残っている。
親父達が青春の時期に食べた味とはどんな物なのか。
俺達はぎこちなく手を繋いで歩きながら、いつになく寡黙な互いに戸惑いつつも、その店舗に向かった。
店の前に辿り着く。
本日売り切れにつき終売。と言う張り紙が書かれている。
「そっか。母さん朝から並んで行列だったって動画で言ってたもんなあ」
愛がこぼすように言う。
「代替案だ!」
俺は咄嗟に言う。
「なんかある?」
視線までクールな愛である。
今までこいつはそういう奴だからと気にしたことはなかったのだが、恋人同士だと意識してしまうとなんとかせねばと言う気になってしまう。
アリスのパフェ屋が一瞬脳裏をよぎる。
駄目だ、多分それは最悪の選択肢だ。
「ま、春武と私で上手く行くわけ無いと思ってたけどね」
俺はむっとする。
「なんだよそれ、売り切れだった程度で」
「じゃあなんか代替案あるの? ないでしょ?」
理論で詰められる。
こういう時感情派は不利だ。
「あー、もう、帰ろっか」
そう言って愛の手がするりと俺の手から抜け出た。
いけない。勝負師としての勘がそう言っている。
ここは勝負の分かれ目だ。
「勝負しようぜ」
俺は愛の手を握り直していた。
愛は戸惑うように俺を見る。
手は繋ぎ慣れていない。
温もりが心地良い。
「昼食に相応しい手で掴める軽食屋を先に見つけたほうが勝ち。勝った方は負けた方に一つ言う事を聞いてもらうことができる」
愛の目が細められた。
「ここ、東京よ? いわば私のホームよ? 貴方、所詮お客様じゃない」
「知らないのか? 東京の文化はお登りさんが構築してるんだ」
「ふうん」
愛の唇の端が、にっと持ち上がった。
「面白いじゃない。言う事、聞かせてあげる」
「こっちこそ。練習に付き合わせちゃる」
「じゃ、一時間後にここで集合。パネルフォンに位置情報記録しておくのを忘れずに」
「了解。今一時三分だから二時三分だな」
「勝負開始よ」
早速父母の足跡辿りという趣旨が変わってきたが、こっちの方が俺達らしくて良い。
憎まれ口を叩き合う仲だ。
穏便に行こうという方が楽観的だったのかもしれない。
俺は足に魔力を込めて、全力で駆け始めた。
駆け始めてから気づく。
愛に護衛、ついてたっけ?
(ついてないな)
強いてあげれば俺。それが別行動を取っている。
探知も同時進行で行うべきか。
それは相手への更なるハンデになるのだが、この際口に出すのも野暮だった。
俺は駆けつつ魔力の探知を並行して開始した。
つづく




