一日待ってあげる
「一日」
沈黙を破ったのは、愛の呟くような言葉だった。
「急な話だから一日は待ってあげる。明日には返事を聞かせて」
「……わかった」
動転していた。
自分を嫌っていると思っていた幼馴染の告白に。
その日、愛はリトルシニアの練習を見に来なかった。
エイミーがついているだろうから身の危険はないだろう。
「愛はどうしたんだ?」
辰巳が不思議そうに言う。
「腹でも下したんだろ」
適当に言う。
告白の言葉を思い出して頬が熱くなった。
そして俺は、練習後、手帳の次のページをめくっていた。
そこにはこう書いてある。
『そして貴方は、筆者と出会う』
前を向いた。
黒曜石のような髪が印象的な女性。
彼女がそうなのだと、手帳に残る霊力からわかった。
「迷わせてくれたもんだぜ。この予言書にはな」
女性は微笑む。
「運命の人は守れた?」
「……運命の人、なのかねえ、あいつが」
俄に信じがたい。
「あんた、何者だ? 何を動機に俺にこの手帳を渡した? 教えてくれ」
女性は真面目な表情になると、語り始めた。
「私は先生の生徒の一人」
俺は咄嗟に身構える。
予知能力者ならば対処も困難だ。
身体能力でゴリ押すしかない。
女性は掌を前に差し出して待ったをかける。
「けど、私は先生の危険性を発現した能力によって察知して、事前に身を隠した。そして、貴方を待っていた」
「それなら、もっと前から出てこれば良かったじゃないか」
俺は憤慨しつつ言う。
そうすれば刹那は魔力を奪われずに済んだのに。
「魔力や霊力が大きい同士で衝突するシーンは未来がぼやけるんだ。だから、貴方達が勝つかどうかも未知数だった」
なるほど、魔力や霊力の干渉に弱いのか。
「けど、今日、未来を見た」
俺は息を呑む。
「どんな未来だ」
恐れつつも言う。
「先生は貴方と対峙している。愛ちゃんも傍にいる。二人は光り輝いて、先生の強大な混合力に対応する」
「だから、愛を、運命の人、と?」
「あ、誤解した?」
悪びれずに女性は言う。
それは普通、運命の人と言われたならば、未来の伴侶を思い浮かべるものだ。
「そこから先は全く見えない。だから、今日、愛ちゃんを殺させるわけにはいかなかった。だから動いた」
俺は黙り込む。
俺は対峙するのだろうか。愛と共に。先生と。
「それだけ。捕捉されたくないから私はもう行くね」
「また、会えるのか?」
「未来が見えたら、その時に」
そう言い残し、預言者は後を去った。
さて、愛の件。どうしよう。
俺は愛を嫌っていないし、幼い頃からの情もある。
しかし、俺はアリスが好きだ。
どうすれば良いんだろう。
拒絶すれば愛は傷つく。
それを思うと、俺は悩むのだった。
つづく




