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幼馴染

 物心ついた時には愛はもう友人だった。

 たまに東京で遊ぶ特別な友達。

 異性ということもあって最初は意識していた面も正直ある。


 しかしある一定の時期から、彼女はシニカルになった。

 俺に対しても冷めた態度を取るようになり、昔のようにゲームショップでわいわいと談義するような中ではなくなった。

 というか、先に彼女はゲームを卒業して、俺だけが未だに追っていいるというだけなのかもしれない。


 しかし、俺の試合はちょくちょく見に来る。

 その瞳には相手を信じ切った者だけが得る無垢とも言える光を宿している。


 こいつのことは正直良くわからない。

 ただ、自分の運命の人ではないのは確かだと思うのだが。


「あんたこそ何しに来たのよ春武」


 鼻で笑いながら言う。


「脳筋のあんたが読書? HAHA、笑っちゃうわ」


「いや、課題の調べ物でな。この中学の歴史を探りに」


「ああ、そこよ。卒業生達の残した冊子。一定の期間まで都市伝説が書かれてるのも面白いわね。尤も」


 そう言って、読んでいた本を閉じて本棚に戻す。

 そして、例の冊子を取り出してページを開き始める。


「このデジタル全盛期の都市伝説なんてのもナンセンスな話だけど」


「手伝ってくれるのか?」


「あんたがやるより効率的でしょ。いらない?」


 さらりと言う。

 案外良い奴だ。

 愛はページを数度開くと、中を示した。


「ほら、ここ。四半世紀以上前の代物ね……都市伝説だって」


「へー。世代的に俺達のじいちゃんぐらいか?」


「かもねえ」


「お前ってさ」


 戸惑いつつ言う。


「口では悪辣だけど基本俺に対して親切だよな」


「自惚れないで」


 丸めた冊子で頭を叩かれる。


「あんたにだけ親切なわけじゃないわ」


「まあそうだな。外国人観光客に道聞かれたらペラペラの英語で対応してるもんな」


「……褒めても何も出ないわよ?」


 そう言って、冊子を手渡してくる。


「そんな調子の都市伝説が一定まであるから、集めたら面白いかもよ」


「昔は春武と離れたくない、なんて泣いてた癖に」


 去っていく愛の背中が硬直する。

 そして、ぎこちなく振り返った。


「あんただって泣いてたじゃない!」


「あの頃はお前が一番の親友だったんだよ!」


「じゃあ今は何よ!」


「生意気な一年生!」


「産まれたのが一年先ってのがそんなに偉いの? だから色眼鏡でしか人を見れないのよ!」


「言うほど色眼鏡か? お前は俺に対して悪辣すぎる!」


「それは春武が私をわかってくれないからじゃない!」


 どうしてだろう。久々にこんなに話した気がする。


「じゃあ、理解するよ。教えてくれよ。お前が何を考えてるのか」


 俺は手を差し出す。


「そうすれば、俺達、前みたいに仲良くなれる気がするんだ」


 愛は躊躇うように視線を彷徨わせ、怯えるように俺の指先に目を留めた。

 ゆっくりと、手を進め始める。

 それが、何かを決意したようにぎゅっと握りしめられた。


「あんたが悟れば良いだけの話よ。じゃあね」


 そう言うと、慌てたように愛は早足で去っていってしまった。

 あれが俺の運命の人? 難儀すぎる。

 難解なジグソーパズルを前に外枠だけを埋めて中枠はまっさらみたいな状態だ。


 愛の中身は未知すぎる。


「ほんと、何なんだよこの手帳。無駄に疲れさせやがって……」


 ぼやきながら次のページを開く。

 そして、俺は呼吸を止めた。


「五時間目。君の運命の人は急襲される。同学年の友達も欠席中だから守ってくれる人もいない」


 チャイムが鳴った。

 五時間目を告げるチャイムだ。



つづく

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