貴方が六階道家の跡継ぎね!
「お互い京都在住で今更自己紹介ってのも変なものだけど、奇遇ね、六階道」
「助かったよ二階堂」
俺は二階堂春歌の来訪に表情を崩していた。
「貴方が六階道家の後継ぎね!」
春歌は名前の通り歌うように言う。
くすぐったくて苦笑する。
「間借りしてるだけさ」
「この前は言ってなかったけど、知ってる? 私はずーっと前から貴方を知っていたんだよ?」
はて、と思う。
春歌と俺は二歳違い。会ったことがあると言われれば幼い頃にあるのかもしれない。
俺の様子を見てくすくすと春歌は笑う。
「春歌。助かった」
愛が苦笑交じりに言う。
「良いの良いの。これも私の、陰陽師のお・し・ご・と」
語尾にハートマークでも付きそうな声で言う。
小学六年生にして既に色香のようなものがある。
一歳の差が大きい俺達の年齢の二歳差でこう思うのだから相当完成されているのだろう。
「さて、その子に治癒を」
春歌が愛に促す。
愛は思い出したように、ギシカの背を叩く手を止め、押し当てた。
「ヒール」
光が放たれ、ギシカが目を覚ます。
そしてぎょっとしたような表情になった。
そして、自分の行動を思い出したらしく、どんどん青ざめていく。
其の様子は酔から冷めて素面になった大人のようで滑稽でもあり、可愛らしくもあった。
「愛ちゃん、ごめんなさい!」
飛び跳ねて後方に着地し、土下座する。
コンクリートが砕け散った。
ハーフデビルとは言え、魔力を使わずにこれとはなんて石頭。
「自分を責めないことだよ、ギシカ。良い子にしようと思うからストレスがかかる。全人類に好かれる方法なんてないんだ」
千紗が諭すように言う。
ギシカは唸り声を上げた。
「……けど私は、愛ちゃんとは仲良くしていたい」
「あんたがそんな不安定なら良いわ。一時休戦にしてあげる」
そう言って、愛は肩を竦めた。
「それでその、俺、ギシカと合体して記憶を見たんだが……」
俺の言葉に、今度は愛が青ざめる。
「お前、なんでギシカを詰めてたんだ?」
愛の頬が今度は紅潮していく。
まるでそう言った遊具のようだ。
「じゃあ、会話も知ってるんじゃないの?」
「いや、そこだけギシカの抵抗かノイズがかかって、映像と感情だけ知ってるって感じ」
しばし、沈黙が漂った。
「……なんとなく」
「それは無理があるんじゃない?」
千紗がまた諭すように言う。
愛はじっと、恨みがましげに俺を見た。
俺は困惑してその視線を受け止める。
いつもこいつが向けてくるのは負の視線だ。
恨み、嘲り、不満。
けどたまに、期待と信頼を感じることがある。
こいつとの複雑な関係も長くなってきたな、と俺は思い、気分を変えた。
「言いたくないなら、良い」
そう言うと、愛は強張っていた肩の力を抜いた。
多分、俺達の関係を保つためにも、この判断は必要なのだ。
つづく




